「あんた何か大嫌い!!!」
泣き目のリタが力一杯叫んだ。次の瞬間には彼女の魔術が発動している。
下級魔術シャンパーニュは、シュヴァーン隊長…正確に言ってレイヴンに直撃した。魔術を避けなかったのは、リタへのせめてもの良心だろうか。

「リタ!無理しなくて良い!」
前衛で戦うユーリが叫んだ。…嗚呼、あいつは知ってるんだ。あたしがおっさんに抱いてた気持ち。


「無理何てしてないわ!!
第一…あいつをぶん殴らないと気が済まない!!!」

彼女は続けてイラプションを展開させた。ファイアボールをスキル変化させたのだろう。
シュヴァーンがユーリを蹴り飛ばした。次にカロルを簡単に転ばせて、詠唱を重ねるリタへ近づく。
「リタ!!」
ジュディスがフォローに回ろうとするが、間に合わない。
リタがとっさに詠唱を中断し、防御をしていなければ今頃彼女は大きなダメージを受けていただろう。安心はしたが立ち止まって居る場合ではな
い。ユーリは再びシュヴァーンに向かい走り出した。


「リタ」
「うっさい!あんた見たいな裏切り者…あたしは大嫌いなんだからっ!!!」

シュヴァーンの言おうとしていた言葉を、リタは無視した。
β×ψ=√(ルドルフ)とτ=δт(ωρ)(ラプラス)を駆使して、彼女は上手くシュヴァーンと距離を取り、そして再び詠唱を始める。

起き上がったカロルとユーリが同時に攻撃を加えた。そこにジュディスが加わって攻撃する。
だがシュヴァーンには聞いていない様だった。…傍に居たのだからお互いに攻撃パターンは分かっているのだ。
シュヴァーンが剣を振り回す。隊長格なだけあってやはり彼は強い。

「リタ!!」

こうなれば頼れるのは後衛であるリタの援護だ。リタは分かってると言わんばかりに、腕を振り上げた。


「クリムゾンフレア!!!」

…リタは、覚悟を決めたのだろう。
彼女はシュヴァーンに、…大切な人に上級魔術を当てた。
流石にアレには堪えた様だ。ふらついた体でシュヴァーンが笑う。


「暫く見ねえ内に…強くなったんだな」

――その言葉はリタへの言葉――

リタの表情が凍り付いた。…そして次の瞬間には泣きながら笑ってた。



「あんたもね…!!」

リタが叫ぶ。…彼女は再び詠唱を始めて居た。
2人共、どこまでも不器用だとユーリは思う。…2人共抱いている気持ちは一緒の筈なのに。
ユーリが剣を振り下ろす。シュヴァーンは防御を重ねるがジュディスが攻撃をした瞬間に彼に隙が出来た。



「これであんたも終わりね」

リタが小さく、呟く。
彼女は涙を流しながら――上級魔術、ブレードロールの上に技を重ねた。



「さようなら――レイブン」

魔術に重ねられた彼女のバーストアーツ――ミスティックドライヴ――は、悲しく光を展開させた。




…ミスティックドライヴの光の中で、シュヴァーンの表情が見えた。

彼はこれで良いと言わんばかりに笑ってた。…リタに向けて。
その唇が言葉を紡ぐ。声は聞こえなかったが口の動きで理解した。



『愛してる、リタ』



「…あたしも、好きだったわよ。馬鹿」


ミスティックドライヴの光が消えた虚空を見ながら、自嘲気味にリタが笑った。



*Forever

(悲しい筈の運命が最初から悲しかったかなんて、私には解らない。
この悲しい運命が無ければ、
あんたには出逢えなかったのだから…。)







08-08.13



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