※リチアが眠っているスピルーンがヒスイだったらっていう誰かが絶対やってるネタ(つまりヒスイとコハクの位置入れ替え)


「ヒスイ」
かつて俺を叱ってくれた彼の面影は、其処には無い。
虚ろな瞳で俺の言葉を聞き流し、何度名前を呼んでもこちらを見向きもしない。
肩を引き寄せると、やっとヒスイがこっちを見た。
「…シング?」
「……ごめん、な」
その虚ろな瞳を真っ直ぐ見つめる度、俺は激しい自己嫌悪と喪失感を感じる。
俺にはヒスイに触れる資格もないけれど、それでもこうでもしないとヒスイ反応してくれない。俺の言葉にも、妹であるコハクの言葉にも、無感だ。

元々ヒスイはこんな風では無かった。
初めて出逢った海岸の時点では、彼は皮肉口調だが優しくて強い人間だったのだ。
だけど。

――俺が、スピルーンを、壊してしまった。


確かにこの手で砕いてしまった。
彼の情緒をつかさどるスピルーンを、何もかも。


―どうして?!―
妹コハクに足蹴りを食らって‘何で兄のスピリアを壊したんだ’問い詰められた。
俺だったそんなつもりはなかったんだ。
…と言っても、きっとコハクは信じてくれないだろう。
海岸で出会ったときの人工呼吸の前科に、ヒスイの件。完全に信頼を失っても可笑しくなかったのに、

「ヒスイの心を戻す手伝いを、させてください――!!」
「……うん、分かった。…一緒に、頑張ろう。
ごめんね、蹴っちゃって。痛かったよね」

それでもコハクは俺の事信じてくれた。
だから俺もその信頼に少しでも答えたい。何があってもヒスイの全てを、取り戻す。



頭を撫でても、無理に引き寄せても、頭ごなしに怒っても。それでもヒスイに表情の変化は無い。
…残された彼のたった一つのスピルーン…‘優しさ’。
それが俺を何度も蹴ったコハクを止めた原因だった。
俺は結局、コハクにもヒスイにも助けられてばっかりだ。


じいちゃん。俺、何が何でもヒスイを助けるよ。
恩返し。償い。色々有るけど、何よりも――。




――ヒスイの笑顔が、もう一度みたいから。



*目を覚まして、眠り姫







10-01,15

私は超短編しか書けないみたいです。



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