「あっちー…」
じりじりと焼き付ける様な暑さの太陽に、そう呟かずにはいられなかった。
歩く度に砂埃が舞い上がり、とても裸眼で歩ける様な状態では無い。
普段戦闘にしか掛けないゴーグルを着用しながら、ヒスイは目の前に居る機械――基、クンツァイトを追いかけた。
コハク達と逸れた原因はあの馬鹿でかいワーム野郎だ。俺達は別々に別れて落命の荒野を抜ける事になったが…。
心配なのはやはりコハクだ。あの馬鹿が一緒に居るから尚更心配である。大丈夫だろうか。
「ヒスイ。ペースが遅れて来ている」
「わーってるよ!!」
お前みたいな機械と違ってこっちは生身の人間なんだ。心の中で悪態を吐きながらクンツァイトに追い付こうと小走りに走った。


じりじり。太陽の日差しが痛い程に照らしている。
刹那目眩がして足を止めた。冗談じゃねえ、少しは休憩ぐらいさせやがれ。機械野郎が。
俺が止まった事に気付いたクンツァイトが機械的に振り返った。
「どうした」
「…何でもねえよ」
直ぐに歩きはじめ、不意にある思案が浮かぶ。

こいつは疲れ知らずの機械。って事は俺を上に乗せて進んでも全然平気なんじゃねえか?
「おい」
「何だ」
「お前全然疲れてないんだろ?俺を乗せて移動とか出来ねえの??」
砂に足を取られ、俺もかなり疲労が溜まってる。
こいつの上に乗って移動出来たらかなり楽だ。そんでこいつは主だか何だかしらねえが速いとこコハクと合流したがってる。
早く会うために俺を運べって言ったら多分動くだろう。
「勿論可能だ」
「よっしゃ!!」
じゃあ遠慮無く、と背中(っぽい鎧の部分)に乗ろうとして、クンツァイトに静止させられた。
「但し」
「…んだよ」


「熱いぞ」

そういえば…機械って鉄で出来てる、な。
クンツァイトの警告でそれに気づき、背中に伸ばしかけていた手を慌てて引っ込めた。
長い間この日差しに当たっていたクンツァイトの鎧は相当熱いに違いない。
熱を通したフライパンに素手で触れる様なものだ。悪寒がして思わず身震いした。
名案だと思ったのだがとんだ落とし穴だ。地道に歩くしかねえのか。溜息を吐いて再びクンツァイトの後ろを歩きだした。


定期的に現れる頭痛と立ちくらみに何度か足を止めてしまう。
流れ落ちる汗が砂漠の暑さを物語る。
やべえ、何か…意識が朦朧としてきた…。
砂の中に倒れそうになった瞬間、何かに手を引かれた。それが機械野郎だと気付くのに数秒掛かった。
「ヒスイ、平気か」
「…へ、いき…だ」
何処が平気何だろうかと自分で苦笑してしまう。
足に力が入らず、クンツァイトに支えられ、かろうじて立っている状態だった。
目を閉じて荒い呼吸を繰り返していると、突然クンツァイトが口元に何かを近付けてきた。
半開きになった口の中に、それが押し込まれる。
入ってきたそれは暑さを忘れる様な冷たさで――水だと分かった瞬間、それを何度も飲み込んだ。

やがて俺が水を飲むのを止めるとクンツァイトが水の入った水筒を遠ざける。
水分を含んだ所為か、さっきよりは大分楽になった。
「脱水症状だ。暫くすれば平気だろう」
「…そりゃ…どうも」
大分楽だがまだ足に力は入らない。暫くはクンツァイトに支えられたままで居るしかなかった。
だがクンツァイトは文句一つ言わずそこに立っている。
…こいつ。案外良い奴なのか?
「…もう大丈夫だ」
大分平常に戻ってきた為、クンツァイトの体から離れた。
「そうか」
再び歩きだした男を追いかける。
「…その。…あ、りがと。な」
「問題ない」
返答がまさに機械らしくて、思わず笑ってしまった。



*砂漠の戯事
(優しい奴みてえだけど、やっぱり機械は機械か)







10-01,22



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