「眠れないの?」

そう言って話し掛けて来たのはレイヴンの方だった。
「……別に」
素っ気なくリタが答える。
そんなリタの隣に、レイヴンは何の断りも無く座った。
彼女はケープを羽織ったまま焚き火の傍で何をする訳でもなくじっとしている。
…今日の見張り当番はレイヴンだ。
しかし当番ではない彼女が起きていると言う事はやはり眠れないのだろう。
2人の間には沈黙が流れている。時折リタがレイヴンの方を見たりするのだが、目が合えば直ぐに反らしていた。


「ま、眠れねー日も有るわな、そりゃ」
「誰も眠れない何て言ってないんだけど」
「意地張るなって」
「うっさい。馬鹿おっさん」
リタは空を見ながら先程からずっと溜め息を吐いている。
…そういえば今日の彼女は、何処と無く元気が無い気がする。夜だから…という訳では無さそうだ。


「――リタ」
「何よ……っ?!」

振り向いた彼女を、乱暴に抱き締めた。彼女が胸の中でじたばたと暴れている。

「ちょ…何すんのよ変態!!
離しなさいっ!!」
「離すって?何を??」
「と・ぼ・け・る・なっ!!」

耳まで真っ赤にした彼女が、此方をぎろりと睨んだ。
それを見たレイヴンはくすくすと笑いながら彼女を腕から解放する。呆気なく解放された事にリタが逆に驚いていた。


「どういうつもりよ」

相変わらず彼女は此方を睨んでいる。
レイヴンは笑って言った。

「そっちの方がリタっちらしいな」
「は?」
「何に落ち込んでたか知らねえけど…元気でたか??」

その言葉にリタが唖然とした顔をした。
それからまた顔を真っ赤にして、此方を見る事無く言う。


「い、一応言っとくわ。…あ、りがと…」
「…どー致しまして」

照れているリタは本当に可愛らしい。
触れたいけれどリタが怒るだろうから、敢えて一度だけ頭を撫でた。

「もう寝とけ。明日もはえーぞ?」
「…そうするわ」

リタがその場を立ち上がり、踵を返す。



「おやすみ、リタっち」

「…おやすみ」

小さく、本当に小さくだがリタが言葉を返した。



*眠れない夜に




08-08.14



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