「あっ…!!」
声を上げたと同時にコップが地面とぶつかり合い、音を立てて割れてしまった。
食事当番であったリタは溜め息を吐いてコップの破片を拾う。幸い1つしか落としてないし、破片も大きいから……。

「…!!」
油断してた直後に、ガラスで指を切った。右手の人差し指から血が溢れている。
かなり深く切った様だ。仕方無く右手を使わず、左手で破片を処理した。

「リタっちぃ?」
不意に聞き慣れた声が聞こえ、ぎくりとなる。…目の前にはレイヴンが立っていた。
レイヴンはリタと割れたグラスを交互に見合わせ、状況を理解したらしくリタの傍に近寄った。彼が眉を顰める。
「血、出てるじゃねぇか」
「へ…平気よ、この位」
「結構深いな…」
レイヴンはそう呟き、あろうことかリタの指を口の中に加えた。彼女の顔が一気に真っ赤になる。

「なっ…ななな何すんのよ!!」
「しょーどく」
レイヴンがあどけなく笑った。…コイツ、絶対あたしの反応を見て楽しんでやがる。無事な左手で思い切り背中を殴った。


「いてて…ま、とりあえずユーリ辺りに絆創膏貰ってこいよ。グラスは俺が処理しといてやっから」
「当たり前でしょ、ちゃんと処理しときなさいよ」
「…へいへい」
レイヴンが苦笑しながら頷いた。
リタは踵を返し早足に歩き出す。…右手人差し指が熱い。全部アイツの所為だ。



(惚れた、なんて…)

絶対有り得ない。
有り得ないんだから…!!

あんな胡散臭いおっさん何かに惚れる程、自分も可笑しい人間じゃない。


リタは自分に言い聞かせる様に心の中で何度も何度も繰り返し呟いた。





*消毒液は愛の麻薬




08-08.15



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