※死ねた注意! ――ザウデ不落宮―― 「リタ・モルディオ」 目の前の男…アレクセイがリタに微笑んだ。 彼女は警戒したままその場を動かない。そんな彼女に男は尚も言葉を続ける。 「私に協力しろ。 ――お前程の知力が有れば、サウデ不落宮を動かすのも容易だろう?」 「嫌よ」 アレクセイの言葉に―きっぱりと彼女が言い放った。 男が残念そうに肩を竦める。 「残念だよ。君の実力なら――或いはこのサウデ不落宮から、姫の力のヒントが得られるかもしれぬのに」 「――っ」 リタの表情が揺らいだ。…やはり、エステルが彼女を意のままに操る鍵なのだ。 躊躇いがちの彼女に――レイヴンが叫んだ。 「騙されんじゃねーぜ!リタ!! ソイツは嬢ちゃんをどんな風に扱ってた?ソイツは今から何しようとしてるか分かってんだろ!!」 「っ…分かってるわよ!!」 リタが振り向き、レイヴンに叫んだ。 …その瞳には、既に迷いは消えている。 「…シュヴァーン、か」 「シュヴァーンならあんたが生き埋めにしたって前言ったでしょ。俺はレイヴン」 シュヴァーン…否、レイヴンの言葉にアレクセイが口元を歪ませた。 皮肉の笑みを向けながら男が笑う。 「そうか…そう言う事か! お前、モルディオに情を抱いたな?」 その言葉にレイヴンが顔を歪ませた。 …嗚呼、やはりアイツはモルディオに情を抱いている。しかも最も皮肉で情けない――‘愛’と言う名の情を。 「だから何よ」 顔を引き釣らせたレイヴンが笑った。 …そうだ、それで良い。そして今からの私の行動に嘆き悲しむが良い。 「こうするまでだ」 アレクセイはそう言って、引き抜いた剣を――目の前のリタに振り下ろした。 「っ――!!!」 遠くに居るユーリとエステルまでもが顔を引き釣らせた。アレクセイの振り下ろした剣はリタの右腕を貫通している。彼女は右腕を抑えながら座り込 んだ。 レイヴンが呆然とした顔をしている。だがやがてその瞳は怒りに満ちていった。 「てめぇ…リタは関係ねぇだろが!!!」 「そうかな?君に――君達に協力しているのだから関係は有るだろう」 アレクセイが笑いながら剣を傲慢に引き抜き、彼女の腹部を蹴り飛ばした。痛みに顔を歪ませながら、安易に倒れるリタを見て男が笑う――。 ユーリが叫び、アレクセイに向かって走り出した。 「止まれ!!」 だがアレクセイがリタの喉元に剣を突きつけながら叫んだ。…下手に動けばリタが死ぬ。ユーリは歩みを止めた。 「抵抗するなよ?…最も、抵抗したりその場を動いたりすれば、モルディオが死ぬだけだがな」 「てめぇ!!」 レイヴンが怒りに満ちた声で叫んだ。何て愉快なんだ。 「何だい?シュヴァーン」 何事も無かったかの様にアレクセイが笑った。 アレクセイの傍に横たわるリタは、痛みに顔を歪めながらアレクセイを睨んでいる。 「ちょっと」 そんな彼女が不服そうな顔をしたまま叫んだ。 「早くこの馬鹿どうにかしなさいよ」 「けど、お前が…」 「あたしの命と世界の命。どっちが大事だと思ってんのよ!!馬っ鹿じゃない?」 そう言って彼女は無理して微笑んだ。 …ユーリ達に喋り掛けるリタを不満に思ったのか、アレクセイが彼女の腹部に剣を振り下ろす。リタが絶叫した。 「…ユーリ」 「……恨むなよ、リタ」 レイヴンの呼び掛けに答える様に、ユーリが呟く。 彼は再び走り出した。…アレクセイに向かって。 「…馬鹿め。 この女が死ぬ道を選んだ、か」 アレクセイはそう言って、彼女の喉元に剣を――――振り下ろした。 肉の斬れた嫌な音がして、次に彼女の喉元から鮮血が溢れ出す。…リタは最期まで、一度も悲鳴を上げなかった。 「…ごめんな…リタ…」 君1人すら守れない、無力な男でさ。 せめて、安らかに 冷たくなったリタを見ながら、レイヴンが思った。 *せめて、安らかに 推敲するまでザウデをサウデと思ってたとか言えない…← 08-08.16 Back |