「脱ぎなさい」

仁王立ちをして指を差すリタが言った言葉に、レイヴンが目を丸くした。彼女が指差した先は間違いなくレイヴンだ。
近くに居たジュディスがくすくすと笑って補足を付け足す。
「きっと、貴方の体内の魔導器が正常に動いてるかチェックしたいのよ。彼女」
ジュディスはそう言って部屋から出て行った。彼女なりの気遣いだろうか。
ジュディスの言葉にリタの意味不明な発言を漸く理解した。渋々と服に手を掛ける。上半身半裸になると彼女が身を乗り出して魔導器を見つめだし
た。
…こんな小さな少女なのに、本当にアスピオ一の天才魔導士なのだろうか。偶に思ってしまう。

ふと、彼女の顔を見ると顔が少し紅く染まっていた。
どうやら魔導器の確認は終わった様で、確認に満足してから彼女は漸く自分がやっている事の恥ずかしさに気付いた様だ。


「リタっち、照れてる?」

へらへらと笑いながら問い掛けると、体を叩かれた。
「誰が照れてるのよ!!馬っっ鹿じゃないの!?」
だが、そう言う彼女の顔は真っ赤だ。照れ隠しなのは分かりきっている。
笑いながら上着を羽織った。リタが嫌悪の顔で此方を睨んでいる。相変わらず顔は林檎の様に真っ赤だ。
そんな彼女を見ていると、急に愛しさが込み上げて来た。…無意識に手を伸ばし、小さな体を抱き締める。


「ちょ…何すんのよ変態!!」
「なぁ、リタ」
低い声で彼女の耳元に囁いた。リタの体が飛び跳ねる様に痙攣し、悪態を吐いていた唇が閉ざされる。
「…アレクセイに魔導器で生かされた時、あんま生きた心地とかしなくてさ。
…結構死にたいと思う時が合った」
「っ…あんた――」
何か言おうとする彼女の唇に、優しく人差し指を当てた。
[黙って欲しい]という願望が届いたのか、彼女は口を閉ざし腕の中で俯く。
リタの体を強く抱き締めながら、言葉を続いた。
「戦友も死んだ、仲間も死んだ、敵はそれ以上に死んだ――。
…おっさん、だから本当は死にたかったのよ。
リタっち達と戦った時も、そう」
「……」
軽いノリに戻しては見たが、彼女は相変わらず俯いている。…辛そうに顔を歪めているのが少しだけ見えた。

「リタっち達が殺してくれたのなら。…そんな願望で、戦った」
「…そんなの…身勝手よ……」
「…そーね。身勝手、ね」

苦笑して笑う。
俯いているリタの頬には雫が零れていた。…何て儚い涙なのだろう。自分が泣かせていると思うと胸が痛む。

「…でもね、リタっち」
「……」
「リタっち見てると――ちょっとは思えるのよ。…生きたい、って」
何でだろーね。そう言って冗談ぽく笑うと、リタが背中に手を回して――自分から抱き締めてくれた。

「あんたは死なせない」
「…」
「馬鹿で女誑しでウザくてムカつくけど」
「言い過ぎでしょ、それ」

「でも…死んで欲しくない」

最後の言葉だけ嫌にはっきりと聞こえた。彼女はそれきり黙ってしまう。
顎を持ち上げて無理矢理唇を重ねた。
彼女が手をばたつかせる。抵抗の1つでさえも愛しい。…この愛しさこそがきっと、俺が[生きたい]と思えるキッカケなのだろう。
唇を離して、満面の笑みで笑った。

「リタっち」
「…何よ」
「愛してる」
「……」

照れ隠しの様に彼女が俯く。
馬鹿っぽい。リタがぽつりと呟くのが聞こえた。彼女の瞳に再び涙が零れ出す。


「馬鹿、馬鹿、馬鹿」
「…そだね」
「……好き」
「…ありがと、リタっち」

俯いて居るので彼女の表情は分からない。それでも、彼女の体を強く抱き締めた。



*張り巡らされた甘い罠




08-08.21



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