「リタっちは夢とかないの?」


不意にレイヴンにそんな事を聞かれた。
リタは一瞬驚いた顔をし、それから訳が分からないという感じの嫌悪の顔をした。
「有ったとしても、何であんたに話さないといけないのよ」
「えー、リタっちのケチー」
ああもう、ウザい。
嫌悪の顔のリタが思い切りレイヴンの腹を殴った。男は喚きながら辺りを歩き回っている。何処の餓鬼だ、このおっさんは。

「そう言うあんたこそ夢とか無い訳?」
少しの出来心で聞いてみる。
――レイヴンが少しだけ寂しそうな顔をした。何でそんな顔されなきゃいけないのよ…。
まるで…。

まるで、聞いてはいけなかった事みたいじゃない。



「おっさん、今夢は無いのよ」
「…ふぅん」
「……あの場所で、命と一緒に捨てちまったらね」

…そう言う事か。
レイヴンの言う「あの場所」とは、10年前の人魔戦争に違いない。
私にはアレがどういう戦争なのか知らないけれど、…きっと。辛い思い出しかないと思う。
敵を殺すか、敵に殺されるか。
そんな世界。…私なら死んでもそんな世界に居たくないし、生きたいとも思わない。
儚い顔で俯くレイヴンの頭を軽く叩いた。そして、叩いたついでと言わんばかりに抱き締める。




「泣きたいならなけば?」

そんな事を言うのが精一杯だった。
「リタっち、優しいね」
しんなりした声でレイヴンが答える。…表情は読み取れない。
恐らくは泣いているのだろうが、よくは分からない。…まぁ、見なかった事にしておいてやるのが吉だろう。
瞳を伏せて、指先のぬくもりを確かに抱き締めた。


――儚く笑うあんたは、
ちょっとだけ泣きそうだった。

そんな顔をみて胸が痛む私は、
…やっぱり、あんたの事が……。



*儚い貴方に恋焦がれた私


(ホントは何処かで、好きなのかもしれない)




08-08.22



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