一行は最後の戦い場所になるであろう古代塔市タルカノンの内部を歩いていた。
一人一人が思い思いの事を考えている中で、先程からリタは何か考え事をしている様だ。気になったレイヴンが彼女に話し掛けた。
「どしたの?リタっち」
「…」
彼女の意識に声が届いていない様だ。肩を叩くと、彼女が漸く反応した。

「……何か用?」
考え事を邪魔され、不機嫌な彼女が問い掛けてきた。…苦笑しながら問う。
「いやー、リタっちが何考えてんのかなって思って」
「……」
その言葉にリタは少し躊躇いがちに目を反らし、それから呟いた。


「あんたの体内の魔導器についてよ」

「……どして?」
「…あたし達、今から全部の魔導器を精霊の力に変えるのよ?
あんたの魔導器まで力に変わらないか、…って。ちょっと思っただけよ」
リタはそう言ってまた俯いた。遠回しに彼女は自分を心配してくれている様だ。


「ありがとね、リタっち」

――出来る事ならもっと早くに出逢いたかった。

「…別に」
ぽつりと彼女が呟く。愛しくて、後ろから抱き締めた。
「ちょ、何すんのよ!!」
「おっさんなら、死ぬ覚悟出来てるから大丈夫よ」
耳元でちょっとだけ呟く。…リタの動きが止まった。
彼女はレイヴンの手を無理矢理振りほどくと、踵を返し男の頬を思い切り叩いた。ぱちんと、乾いた音が響く。

「あんたに死んで欲しくないから考えてるの」
「…」
「だからもう、二度とそんな事言わないで」
そう言って此方を睨むリタの瞳に、小さな涙の粒が光っている。…胸が痛んだ。

「分かった。…ごめんね、リタっち」
はにかんで笑うと、彼女は俯きながら前を歩き出す。…彼女の後ろ姿はとても頼りがいがあって――ちょっとだけ寂しそうだった。


「…それでも、俺は」



お前の為なら――こんな命、棄てられる。
リタの後ろ姿を見ながら強く思った。




*君の為なら、こんな命必要無い




08-08.24



Back