「痛っ…」

リタは痛みを抱えながら布団から起き上がった。…此処はカプワ・ノール港。
エステルを助けようと帝都に近付いて…呆気なくアレクセイにバウルごと吹き飛ばされて此処まで来たのだ。
痛みに体を疼くめる。こんな大切な時に腹痛なんて…!!

「…大丈夫……」

彼女が。
エステルの方がもっと痛くて辛い思いをしているのだから……。

「2人共、もう大丈夫か?」

目を覚ましたユーリに聞かれ、リタは一瞬躊躇った物の腹痛を隠して頷いた。


※※※


カプワ・ノール港を出た一行は急いで教えて貰った氷山の道を目指し歩き出していた。
その中で、リタだけが苦痛に顔を歪めて歩いている。…腹痛が酷いのだ。
彼女の顔色が悪い事に、レイヴンが気付いた。ふらついている彼女の体を支えて、ユーリを呼ぶ。

「リタっちがぶっ倒れそうだぜー」

…おっさんの馬鹿。
迷惑掛けるから、隠してたのに…。

膨れ面でそう思った。ユーリが此方に近付いて来る。

「エステルを助ける前にお前が倒れてどうするんだ」
「うっさい…。…それに…あたしなら…平気……」
「何処が平気なのよ。冷や汗だらだらだしぃ」
レイヴンが賺さず突っ込んで来た。コイツ…後で絶対絞める!!
休憩しようとするユーリにリタが慌てて言った。
「あたしなら大丈夫って言ってんでしょ??
第一こんな所で休んでたらエステルが手遅れになるかもしれないじゃない。先に行くわよ」

無理矢理立ち上がる。腹に激痛が走ったが気にしている有余はなかった。

「…本当に大丈夫何だな?」
確認する様に問い掛けられる。その問いに当然だと返してやった。…そう返すしかないのだ。
リタの言葉にユーリは躊躇いがちに歩き出す。他のメンバーも歩きだしたが、何故かレイヴンだけはリタの傍を離れなかった。

「あんたも早く行きなさいよ」
きつく睨むが、男はにたにたと笑ったままリタに言う。
「だってまたリタっちが倒れちゃうといけないじゃない」
「っ…あたしなら大丈夫って言ってんでしょ?!」
思い切り突き飛ばしてやった。腹部に激痛が走る。…頼むから早く行ってくれ。
案の定レイヴンはしぶしぶとリタの前を歩き出した。…それで良い。
リタはポケットから腹痛止めを出して口に含むと、皆を追い掛け歩き出した。

……だが腹痛は一向に良くならない。それどころか酷くなってきた。痛い。歩くだけでも激痛がする。
氷山の手前で遂に耐えられなくなって倒れた。
音に気付いたレイヴンが振り返り、リタの体を抱き締める。ユーリ達も慌ててリタとレイヴンの傍に寄った。

「ったく…無茶しやがって……」
おっさんの悪態が聞こえる。
…仕方ないじゃない。
甘えるなんて私のキャラじゃないし、それにあたしは…早くエステルを救いたかった。

けれど体調不良が邪魔をする。最早座って居ても腹痛が酷かった。


「い…たい…」
我慢できずに唸り声を上げると、レイヴンが心配そうに此方を見た。
「大丈夫か?何処が痛むんだ??」
優しくしてくれる男に対し、妙に心臓の鼓動が打ち鳴る。…レイヴンに聞こえそうな位脈打っていた。

「…お腹」

目を反らしながら言った。まともに顔が見れない。


「此処で休憩しましょ、ユーリ」
ジュディスがユーリとリタに優しく笑いかける。カロルが大賛成と述べた。

「そうだな、ちょっと此処で休憩しよう。おっさん!リタは任せたぜ」
「はいはーい!」


…嫌だ。
これ以上おっさんの傍に居たら…。




心臓、破裂しそう。



…この気持ちが何なのか。あたしはまだそれを知りたく無いんだ……。




「リタ」

だから、呼ばないで。
心臓が壊れそうな位脈打ってる。あんたに呼ばれるだけで、胸が張り裂けそう。

「…もう、無理すんなよ」

優しく頭を撫でられた。…もう駄目だ。体が完全に火照ってる。
恥ずかしくて目を反らしたのに、レイヴンは全て知っている様にリタを優しく抱き締めた。…ぬくもりが温かい。

「ちょっと寝とけ。疲れてんだろ」
…言われた通り寝る事にした。今はそれが一番良い。
睡魔の中で、リタが最後に見たのは心配そうに此方をみるレイヴンの瞳と―――。




「リタ…愛してる……」

…ぼやけた世界で、声だけが鮮明に聞こえた。聞こえてしまった……。

…いや、聞かなかった事にしよう。
明日からまた、ごく普通にコイツと接する為に。







*何時か壊れると知ってても
(育っていく、小さな思い)



08-08.28



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