「ねーリタっちー」
「何よ、おっさん」

名前を呼んだら、意外にも彼女は素直に振り返った。絶対に不機嫌な顔をしていると覚悟はしていたが、彼女の顔色は平常で、しかもどっちかとい
えばご機嫌である。
どうやら先程の戦闘で術式を解読…要は新技を編み出した事に満足している様だ。

狂気と強欲の水流。
その詠唱から編み出された、水系では大規模な魔術となるだろう。タイダルウェイブ。


「今の、やっぱり新技?」
「ええ。ちょっと前からスプラッシュを応用した術式を考えてたんだけど…結構上手くいったみたい」

素直に返事を返す所からして、かなり上機嫌だ。顔色からもそれが伺える。



「リタっちは凄いね」

冗談抜きにそう思った。
アレだけ難しい術式を解読するには、相当の時間を費やしたのだろう。きっとこの子の事だから寝る暇も惜しんで解読を続けたに違いない。
そんな彼女が素直に羨ましく、敬わしくも感じる。



「な、何よ。別に凄く何かないし」

照れ隠しにそう言ったリタがそっぽを向いた。
彼女はそのまま、エステルに名前を呼ばれて彼女の方に駆け出していく。
…どうやらエステルにも同じ事を言われているらしい、彼女が照れ隠しに頬を膨らませていた。エステルがにっこりと笑いながら目をきらきらと輝か
せている。







「…こりゃ、言えないね」



キミが何時か、
その魔術を俺に向けてきそうで。



…君のその強さが怖い、だなんて。



虚空を見ようと目線を泳がせるのだが、最後にはリタの方に目が進む自分が、今だけは本当に呪わしかった。




*きっと君には叶わない




08-09.08



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