「…」
「……」

――沈黙が一点張りを続けている。
漆黒の闇が立ち振る舞う洞窟。カドスの喉笛。
幽霊船で見つけた赤い箱を盗んだラーギィを追って此処まで来た物は良い物の…。
…運悪く歩いていた道の天井が崩れ、後ろを歩いていた自分、リタとユーリ達の2手にパーティーが割れてしまったのだ。

「別の道からそっちに行けないか試してみます!」
「つー訳で、おっさんとリタは其処を動くなよ」

崩れて土砂と化した天井の先に居るエステルとユーリが声を掛けてきた。
返事を返す前に足音が遠ざかって行く。恐らくユーリ達は今も通路を探している筈だ。


そういう訳で、自分とリタは完全に暇をしている。
彼女は自分から一歩離れた場所に座って、図面やら説明やらの入り乱れた複雑な書物を読んだり、ぶつぶつと独り言(偶に愚痴)をこぼしたりして
いる。


「リタっちー」

沈黙に耐えれなくなり、彼女に話し掛けた。丁度独り言を呟いていたリタが此方を怪訝そうに睨む。

「何よ」

「おっさん暇ー」

「じゃあユーリ達でも探して来たら?」

「いやいや!おっさんが行っちゃったらリタっちが1人になっちゃうじゃない。
モンスターに襲われたらどーすんのよ」

「魔術で殴り殺す」

…この子、時々恐ろしい事を言うな。
本気で身震いしたが…リタの言葉も真意だとは思う。
この子の魔術ならどんなモンスターもきっと粉砕…ってそうじゃなくて!!!

慌てて言葉を返そうとしたら、リタが唸り声を上げながら呟いた。


「こんな所で時間掛けてたら、ラーギィに逃げられちゃうじゃない!!
何してんのよユーリ達はっ!!」

リタの言葉に、何で今こういう状態になっているのか再確認した。
再確認して、ちょっとだけ思う。

リタはどうして、そうやって自分だけが苦悩する道を選ぶのだろう。


カドスの喉笛の入口に居た時だって、1人でラーギィを追い掛けようとしたし。
…遠くから見ていただけだが、前にヘリオードで魔導器が暴走した時だって、自分だけでどうにかしようとしていた。

例えそれが魔導器への好奇心から来る行動だったとしても、リタが傷つき、苦悩するのは明白だ。


「…何?」

此方の目線を気にする彼女を、無理矢理掴んで抱き締めた。ぬくもりが暖かい。


急に抱き締められたリタは、顔を真っ赤にして此方を睨んで来る。

「ちょ、離しなさいよ!変態!!」

「なぁ…リタ」

声のトーンを下げると、リタが硬直した。腕の中の彼女が俯く。そんな姿まで愛おしい。


「お前は…どうして、自分が傷付く道を選ぶんだ?」



昔の俺を見ているみたいで、
胸が痛いんだ。



自分が傷付く道の末路には、悲しい結末しか用意されていないと知っているから。




「…それがあたしの選んだ道だからよ」
「……選んだ道、か」

その道は間違っていると言いたいが、
彼女の道は彼女が決めるのだ。俺が口出しする問題ではない。
それにリタは腹を割っていた。…俺みたいに中途半端に悩んでなんか居なかった。


顎を持ち上げて無理矢理彼女の唇に唇を押し当てた。リタが腕の中で暴れるが、無視して深く口付けを交わす。

「ん…ふ……」

流石に苦しいのだろうか。
解放してやると、彼女は大きく噎せ返った。




この子を連れて全てから逃げてしまえたら、どれだけ幸せだろう…。
そんな事を考える自分が憎くて、これ以上リタを見つめていると欲望が壊れそうで。
結局、目を閉じるしかなかった。


まだ、ユーリ達の声は聞こえない。



*いっそこのまま逃げ出してしまおうか




08-09.17



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