※アレシュヴァ前提レイリタ



エステルの…満月の子の力により復活した、海中に浮かぶ要塞――ザウデ不落宮。
アレクセイとの蹴りをつける為、ユーリ達は不落宮内を歩いていた。
侵入者避けであろう仕掛けの有る部屋を延々と歩き続ける中、レイヴンの足取りは何時もより遅い。


「おっさん」

話し掛けると、曇っていたレイヴンの顔が瞬く間に軽薄な笑みに変わる。

「なーに?リタっち」

そう言って無理して微笑む顔が引きつって要るようにも見えた。
…やっぱり無理してる。
あたし達にとってアレクセイは討つべき敵だけど、アレクセイと長い時間を歩んで来たおっさんにとって、アレクセイは特別な人になりかけてると思う
から。

「あんた、待ってなくて良かったの?」
「何でよ」
「…アレクセイと、戦うのよ?」

名前を出すと、男の笑みが唯顔を引きつらせただけの表情に変化した。
…やっぱり、気にやんでいるんだ。だってコイツにとってアレクセイは……。


「…あんまり、気にしなくて良ーよ」

辛い筈なのに、
馬鹿みたいにおっさんはへらへらと笑った。


「大将が悪い事してきたのは確かだし、大将のやってる事は間違ってる。
何時か、絶対にこーなる運命だったのよ」


そう言って微笑む男に――。
涙が溢れてきた。


分かんない。

何であたしが泣いてるの。
辛いのは――おっさんの方なのに。



「リタっち?」

動揺した顔で、レイヴンが顔を近付けて来た。
自分が泣かせたと思っている様だ。…そうよ、あたしは泣かされたの。あんたの無理する姿に、泣かされてんの。



「あんたが泣かないから…」

代わりに、泣いてあげてるんじゃない。


子供みたいな理屈を並べて、溢れた涙を拭う事なく泣き続けた。
レイヴンが何も言わずに手を伸ばしてくる。
次の瞬間にはぬくもりが傍に合った。…ああ、抱き締められてるんだな。気付くのに時間は掛からない。



「ごめんね」

それから、ありがとう。
レイヴンはそう言って、力強く抱き締めてくれた。



*代わりに、泣いてあげてるの



(出逢わなければ良かった…何て、思わない。
貴方がくれた思い出が、今の俺を作っているから)


(みんな馬鹿よ。
ばか、ばか、ばか。どいつもコイツも馬鹿ばっか。
そしてあたしも馬鹿の1人だから、涙の止め方が分からない)



08-09.18



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