「姫様さえ要れば、後は用済みだ」
目の前のアレクセイが残虐な笑みで笑った。…シュヴァーンがそれを黙って見つめて居る。
此処は忘れ去られた神殿、バクティオンの最深部手前の廊下。
最深部の部屋には、かつて仲間だったユーリ達の声が聞こえてきた。
今頃彼等の目の前には、アレクセイと自分の隊の兵士達が立ちふさがって居るだろう。

「シュヴァーン、命令だ。――アイツ等を殺せ」

…分かってた。
何時かはその命令が下る事。
所詮自分はアレクセイの捨て駒なのだ。そして使い捨ての道具でもある。

「…御意」

頷くしか、俺への選択肢は残されていない。
けれど、けれども。
せめて――あの子だけは救えないだろうか。

どうにかしてあの子だけでも逃がせないだろうか?
…気付いたらあの子に、抱えきれない愛を抱いてた。
そんなシュヴァーンの気を悟ってか、アレクセイが笑いながら歩いて言った。


「精々泣き喚くモルディオを目に焼き付けとけ」


そう、吐き捨てて。
男は動揺の顔を見せるエステルを連れてその場を離れて行った。



「…精々、か」

アレクセイはきっと、この神殿ごと破壊するつもりなのだろう。そしてユーリ達と一緒に自分も生き埋めにされる事になるのだろうな。
男の最後の言葉を聞いて悟った。

――此処で、あの子と朽ち果てる。
それもまた、1つの未来なのかもしれない。

だがどの道戦闘は避けられないのだ。
シュヴァーンは剣の柄を握りながら、部屋の最深部に足を踏み入れた。


なぁ、まだ時が間に合うのなら。せめて、君に―――。



*それも一つの選択肢かもしれない

(愛してる、と。伝えても良いですか)



08-08.26



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