※死ねた注意!



無表情に剣を振るった。
馬鹿野郎と此方に叫んだユーリが最初に血を吐いて倒れ、次に飛び込んで来たラピードが斬られた傷を抱えて倒れた。
ジュディスの槍を交わして、術を放つ。
遠くに、立ち尽くしたまま動けないリタの姿が見えた。…ああ、やっぱりお前は戦わないんだな。その選択をする事は薄々気付いてた。


「ねぇ、リタ!戦ってよ!!」
カロルが叫ぶが、彼女は相変わらず放心状態だ。駄目だなアレは。意識が他の方に飛んでいるのだろう。
傷を抱えたユーリが自力で立ち上がる。馬力のある奴だと思った。ラピードは未だに倒れているのに。

「リタ!戦えねぇなら、せめて逃げろ!」
ああ、流石ユーリ。その意見は正しいよ。
戦えないなら、せめて外に出て生き延びた方がマシに決まってる。
彼女の顔が悲痛に染まった。…泣いているのだろうな。それでいい。

俺を憎んで、そして殺してくれ。お前の手で。

そしてお前は逃げろ。…お前だけは…。



不意に無意識に振るっていた剣がカロルに当たった。呆気なく彼が倒れる。人間とは、何て脆いのだろう。

「カロル!」

ユーリが叫んだ。彼の叫びにカロルが小さな声で大丈夫と呟く。
そして、相変わらずジュディスは此方に槍を振るってきた。全く、休む暇が無い。ジュディスの強さを思い知った。

だが勝敗は見えている。

ユーリ、カロル、ラピードが重傷。パーティーでまともに動けるのはジュディスだけ、リタが戦闘に不参加。…明らかに此方が有利だった。
いや、リタが魔術を振るっていたのなら――或いは自力が負けていたのかもしれない。きっと自分は、彼女の攻撃が避けれないから。
なのに肝心の彼女が動かないのだから意味を成さない。…何て皮肉な勝敗なのだろうか。
いい加減に疲れを見せたジュディスに、迷い無く剣を振り下ろした。ああ、終わったな、こりゃ。


「――ブラストハート」

心臓に負担?そんな物はもう構わない。
発動した秘奥義が、周りにいたユーリ、ラピード、カロル、ジュディス。リタ以外の全員を巻き込んだ。
さて、こうして後はリタだけになった訳だが――彼女はどうしようか。
一時剣を収めた。服が返り血に染まってる。
赤い世界、赤い視界、赤い床。何もかもが赤の、呪いの世界。
リタが遠くで涙を流しながら座り込んでいた。あの調子だと、腰を抜かして動けないという所だろうか。

傍に寄ると、彼女が震えているのが分かった。
泣きながらぶつぶつと詠唱を唱えている。…ああ、一応戦おうとはしていたんだな。間に合わなかったが。
目の前で膝を立てて座った。
震えるリタの体を抱き締める。やっぱり、コイツにだけには剣が振るえない…。

「――リタ」

震える彼女に話し掛けた。





「今日の事は、全部忘れろ」


赤い視界も、赤い床も、死んでいった仲間も。…全部。


「今まで合った事も、全部忘れろ」


エステルの事も、アレクセイの野望も、星喰みの事も。…何もかも。






「――俺の事も忘れてくれ」



そして二度と思い出さないで。







「約束出来るなら、俺はお前だけなら救う事が出来る」


簡単な事だ。彼女だけこっそりと逃がしてやれば良い。
アスピオに返して、自分は全員始末したとアレクセイに報告すれば、終わりだ。
リタが生きている事さえバレなければ良いのだから。


「なぁ、リタ」


頼む。約束してくれ。
――お前だけは救いたいんだ。



だがリタは首を横に振った。顔を上げて、泣きながら此方を睨んで来る。

「今更…知らなかった…フリ、何て…あたしには出来ない…」

「…そうか」

出来れば、そう答えて欲しくなかった。
答えがNOなら、




俺は君を殺さないといけないから。



震える手で剣を抜いた。ああ、意外と怖がってんだな、俺。
剣を、リタの背中に突き立てる。
涙を零す少女が呟いた。

「殺すなら…早く殺しなさいよ…」

震えている体。真っ青な声色。
…なぁ神様。貴方は本当に残虐だ。
何故俺はこの子を殺さないといけないんだろう?この子は悪い事なんて、何もしていないのに。
何故?


その時、神殿の天井から瓦礫が降ってきた。これはアレクセイの仕業だな。
…やっぱり俺ごと生き埋めにするつもりだったのか。予想は出来ていたから驚きはしないが。





ああ、そうか。
「彼女を殺す」以外に、もう1つだけ選択肢が合った。


俺が彼女と一緒に死ねばいい。


「リタ」


強く抱き締めて、キスをした。
そしてリタの背中に突き立てた剣を、勢いよく刺す。剣はリタの体を貫通して――俺の胸元まで貫き通した。
ああ、残念。体内の魔導器と少しだけ場所がずれた。やっぱり俺は自分で今までの罪を噛み締めながら自害しろという事か。
交わしていた唇から、血が零れ落ちる。
彼女の口から血が逆流していた。キスが血の味に染まる。
リタが声に鳴らない悲鳴を上げて此方に倒れて来た。

「…痛かったよな、ごめんな」

口から血を流すリタを、愛しいと思う自分は狂っているだろうか。
きっと狂っているのだろうな。

「愛してる、リタ」

冷たくなっていく体を抱き締めた。
潤んだリタの瞳がずっと此方を見ている。瞼を閉ざす前に、血の溢れる乾いた唇が、聴こえない声を紡いだ。



「    」



それとほぼ同時だ。
リタが、重い瞼を閉ざした――。



あの時。彼女が何と言っていたのか、俺には分からなかった。
それは俺を呪う言葉なのか、仲間への遺言か、エステルを救えなかった苦悩か、或いは――――。


崩れゆく神殿の中で、冷たくなったリタの体を抱き締め続けた。





*許されたいんじゃない、君には生きて欲しかった

(痛みと後悔の中で、君が笑う…暖かい夢を魅た)



08-08.26



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