強引に体を床に押し倒され、勢い良く地面に叩き付けられた腕を足で力強く踏まれた。


「お前は私の道具何だよ、シュヴァーン」

だから余計な口出しをするな。
騎士団長はそう言って腹を思い切り蹴ってきた。口の中で鉄の味がする。思わず赤い液体を吐いた。

「何度言ったら分かるんだ?――もう二度と私に逆らうな」

ああそうだ。俺はこの人の意見に逆らったんだっけ。
逆らったと言っても、自分の隊の隊列を変えただけだ。
…それでも、この人の機嫌を損ねるのには十分過ぎるアクションだった様だ。


「…すいません……」

地獄から這い上がって来るような、低い声しか出て来なかった。
アレクセイが此方を冷ややかに見下ろしている。
男はその場に膝を立てて座り、此方に手を伸ばして来た。…ああ、叩かれるな。

思わず目を瞑るが、その手は意外にも頬に添えられた。
男の手が頬の傷に触れる。…そういえば床に倒された時に頬が切れたんだっけか。今更になって思い出した。


「…痛むか?」
「……いえ、平気です」


嗚呼アレクセイ。
貴方はどうして



こういう時だけ優しくなる?



次の瞬間には唇を奪われ、その瞳は慈愛の物から冷ややかな眼差しに変わって居た。

「隊列を私が指示した様に戻せ、良いな」

男は甲冑の音を響かせながらその場を去っていった。


「……っ…」


やっぱり、あの人には逆らえない。
どんなに冷ややかな目で見られても、
どれだけ暴力を振るわれても。



それでも時々見せるあの慈しみの顔に、

‘もしかして’、を期待してしまうんだ。




暫くはその場を立ち上がる事も出来なかった。





*気まぐれの優しさが俺には痛い



08-09.10



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