「んじゃ、そろそろ寝ますかぁ!」
ノードポリカ付近の森でテントを張り、野営をする事にしたユーリ一行。
皆がそれぞれの寝仕度を始める中、焚き火の明かりの近くでリタが未だに書物をめくっていた。

「リタ、もう寝るぞ」
ユーリが声を掛けるが、彼女の耳には届いて居ないようだ。…夢中で何かをしている時は何も聴こえないのは、まるでエステルみたいだ。苦笑し
た。
「おい、リタ」
肩を揺すると、漸く此方に気付いた様だ。だが声を掛けたのがユーリだと分かると、血相を変えて言った。
「何よ、邪魔しないでくれる?」
「…あのなぁ……」
完全に人の話を聴いてなかった様だ。
眉間に皺を寄せて此方を睨むるリタに、ユーリもまた眉間に皺を寄せて言った。

「もう寝るから、明日にしろって」
「勝手に寝てれば?あたし、まだ起きてるから」

…そう言う反応をしてくるのは薄々気付いていた。仕方無く彼女の傍を離れる。
今夜の見張りはユーリ自身だ。リタがあまりにも遅くまで起きているのなら、その時にはまた声を掛ければ良い。
リタと少し離れた場所――ラピードの隣に座りながら、ユーリは思った。
リタの方を見ると、彼女はまた書物を読み始めていた。…その集中力だけは本当に敬意に値しそうだ。
近くに合ったランタンに火を入れ、リタの傍に置いてやった。彼女がちらりと此方を見る。

「気が利くじゃない」
彼女は無邪気に笑って、再び書物に目を向けた。邪魔したら蹴られそうなので、もう一度ラピードの傍に戻る。
空を見上げると、凛々の明星が輝きを放っていた。



※※※


あれからかなりの時間が立った。
流石にこれ以上リタを起こしているのはマズいだろう。彼女の傍に寄る。

…意外だ。
リタは規則正しい寝息を響かせ、眠ってしまっていた。
だがこのままでは風邪を引く。彼女の肩を軽く揺すった。


「リタ」
「……ん…」
「おい、リタ」
「……」
何度も呼ぶが駄目だった。目覚める気配が無い。
仕方無く彼女の体を抱き上げて、無理矢理布団の下に下ろした。それから彼女の読んでいた書物を傍に置いてやる。

「…おやすみ、リタ」

規則正しい寝息を響かせるリタに、ユーリは笑い掛けた。


 


*おやすみ




08-08.12



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