「ユーリっ!!」
エステルが満面の笑顔で近付いて来た。その手には何故か棒が数本握られている。彼女は笑顔で言った。



「王様ゲームしましょう!!」


「…はぁあぁぁっ!?」

…初めに絶叫したのがユーリではなくリタだった。
読んでいた本から目を離し、呆然とエステルを見ている。エステルは小首を傾げて何か間違った事を言ったのだろうかという感じの疑問の顔を浮か
べていた。

「あら、面白そうじゃない」
便上したジュディスが微笑む。遠くでカロルが賛成を主張していた。おっさんは既にやる気に入っている。ユーリとリタだけが愕然としていた。

「駄目、ですか?」
ユーリとリタに向けてエステルがしゅんとした顔を見せる。
…逆らう術は無しだ。ユーリとリタは仕方無く参加する事にした。
ところで、何故彼女はいきなり王様ゲームをやるなどと言い出したのだろうか。
誰かが入れ知恵した事は確かなのだが。

「なぁエステル。お前誰から王様ゲーム何て聞いたんだ?」
「聞いたんじゃ有りません。宿に置いて合った本に書いてありました」
そう言ってにっこりと微笑む彼女に――最早何も言えなくなった。ユーリの膝下のラピードが欠伸をしている。

「ま、良いじゃない!偶には遊びましょーよ」

呑気にレイヴンが言った。…絶対に楽しんでる。
そして自分が王様になったりしたら、絶対に○番が王様にキスとか命令してくるのだろうなと思った。…おっさんだけは王様になりませんように。

「ラピードもやりますか?」
膝下のラピードにエステルが問い掛けるが、彼は目を閉じて眠ったフリをしていた。…参加する気はないらしい。

「さ、始めましょ」

ジュディスがあどけなく笑った。
エステルが1人1人を棒を持ちながら回って行く。ジュディスから始まって皆が一本ずつ棒を抜いていった。



「王様だーれだ!」

カロル、お前本当に楽しそうだな。
2番と掛かれた棒を持ちながらユーリは苦笑した。

「あら、私だったわ」

名乗り出たのはジュディスだった。
…とりあえず、おっさんじゃなくて良かった。リタも同じ事を考えていたらしく安堵の溜め息を吐いていた。

「じゃあ3番が1番をビンタしてみたら良いんじゃないかしら?」

…いきなり何て恐ろしい事を。



「私、4番です」

エステルが棒を見せてきた。確かに4番だ。じゃあレイヴンとカロル中りか…。




「あたし、1番だけど」

…意外だ。
リタが殴られる側だった。こりゃ殴る側は殺されるな。

「…おっさん、リタっちをビンタすんの?」
どうやら死の領域に踏み込んだのはレイヴンの様だった。カロルが5番だったのだな。
「ふぅん?あんた、あたしを叩く気なんだ??」
リタ、目が逝ってる逝ってる。
「だ、だぁってコレ罰ゲームでしょ?!」
「ふふ、頑張ってね」
…ジュディ、さり気なく鬼だ。
おっさんが渋々とリタの傍に寄った。リタがやられたら殺り返すって目をしている。今日はおっさんの命日だな。南無。

散々迷ったらしいレイヴンが、遂に覚悟を決めてリタの頬を軽く叩いた。
リタが一瞬だけ痛そうに顔を歪めて――。



「痛いじゃないの!!」

レイヴンにビンタをお返しした。…ありゃ痛いだろうな。ばちんとかいう良い音が鳴り響いた。
レイヴンがリタに叩かれた頬を痛そうにさすっている。…ドンマイ、おっさん。
そんな訳でジュディスによって棒が回収され、第二回戦に移り変わった。
…今度は4番だ。嫌な予感はする。

「あ、あたしみたい」

王様のマークが付いた棒を見ながらリタが言った。
…今度はリタが王様か。どんな拷問を追求するつもりだ?

「4番と5番で服チェンジ」

…またお前は。
溜め息を吐きながら4番の棒をひらつかせた。

「5番、誰だ?」

「ええと…私、です」




……。
………。
…………。




…何だよ、この沈黙は。
思わず5番の棒を持ったエステルを見ながら硬直してしまった。
いや。待てよ。…俺、マジでエステルの服着るのか?!

「いや、無理があるだろ!!てか絶対無理!!」
「大丈夫よ、貴方って意外と細いし」
「そうそう、頑張れば着れるんじゃない?」
リタとジュディ、完全に他人事だ。…覚えてろよ。
エステルと一緒に岩影まで移動した。勘弁してくれ。何が悲しくて女の服を着なきゃいけないんだ。

「ユーリの服、ちょっと大きいです」

背中合わせに着替えるエステルが言った。…まぁ、当たり前だな。


「着れたぁ?」

陽気な声でレイヴンが問い掛けてきた。ああもう!リタの奴覚えてろよ。
エステルが最初に岩影から出て行った。意外と似合うだの何だのというプラスの反応が多い。
…頭を抱えながら岩影から出た。


パーティーに一緒の沈黙。
それから――最初にカロルが噴き出した。

「ちょ!ユーリ!!」
「あんた…それは無いわ…!!」

次いでリタが腹を抱えて笑い出す。おっさん何て爆笑という感じだった。ああくそ!笑いたいのは俺の方だっつーの!!

「似合ってるわよ」

「…なぁジュディ、それは嫌みか?」

「変ね。私、嫌みは苦手なのだけど」

ジュディがやんわりと微笑む。…もう好きにしてくれ。
怒りを通り越してやるせなさを感じながら、リタにくじの棒を渡した。

「じゃあ、三回戦ね」

ジュディの事に、皆が一生にくじを引いた。
…また4番だ。何かに取り憑かれてるのだろうか。
王様誰だ。叫ぶ前におっさんが喜びの奇声を上げていた。…お前か!!!

「俺様王様〜〜」

王様の棒を見せびらかすレイヴンが真面目に憎い。リタの意識がシンクロしたのか彼女が代わりにおっさんを殴ってくれた。


「痛っ…もうリタっち、暴力的だなぁ」
「うっさい!どーせあんたの事だから○番が自分にキスとかそう言うふざけた罰ゲームにするんでしょ!!!」

…本当にリタとシンクロしてんな、今日。
レイヴンはそんな事無いってとか言いながらも、笑顔で叫ぶ。


「3番が俺様のほっぺにちゅー!!」

みろ、やっぱりそうだった。
4番で良かったと安堵の溜め息を零した。エステルをみるが、彼女は首を横に振る。どうやら違う様だ。
リタは怒りに震えてはいるが、3番では無いらしい。棒には5番が記されていた。
じゃあジュディか?
彼女の方を見るとジュディは笑顔で棒を見せてくる。…あれ、2番?


まさか、















「…ねえ、レイヴン。
僕レイヴンにキスする趣味なんてないよ」






やっぱりカロルか。…もうドンマイとしか言い様が無い。
レイヴンも顔を引きつらせた。その位想定しとけよ。馬鹿かアイツは。

「ちょ、ちょっと。リタっちじゃないの?!」
「あたしはご・ば・ん!!」

怒りに震えたリタが叫ぶ。棒は確かに5番だった。


「エステルちゃんは…」
「1番、です」
苦笑したエステルが更に苦笑を浮かべて微笑む。


「ジュディスちゃーん…」
「残念ね、私は2番なの」
ジュディスの言葉にレイヴンががっくりとうなだれた。本気で馬鹿だろ。


「自分で言ったんだから責任取れよ、おっさん」
「良かったわね、頬にしておいて」
「ふん、バチが当たったのよ、ばぁーか!!!」
「ええと…頑張って下さい?」


部外者全員で2人に応援メッセージ(一部罵倒)を送ってやった。
レイヴンとカロルが必死に首を横に振る。ま、そりゃ男同士でキスとか嫌だな。普通。


「エステルー、そろそろ服戻して良いわよー」
不意にリタがそう言った。直ぐにエステルが反応を見せる。

「あ、はい。分かりました。
ユーリ!着替えに行きましょ」
「ああ、そうだな」
「ふふ。私も着いていくわ」
「あたしもー」

4人で岩影に向かって歩き出す。ラピードがその後ろを着いてきた。


「ちょ…俺様達無視!?」
「みんな酷いよー!!」

「生憎ホモの趣味は無くてね」
「どうかーん」


結局2人はその場に置き去りにした。




*王様、だぁれだ




08-08,28



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