「青年はリタっちが好きなの?」 軽薄な笑みを浮かべた男が、近付いてきたと思った瞬間に問われた言葉に、思わず一瞬固まった。 「そりゃ…、好きな方だぜ」 「それは、恋愛対象として?」 「冗談。そんな訳ないだろ」 軽く笑って返すと、レイヴンが首を傾げる。 次いで言われた言葉に、不覚にも顔が赤くなっていった。 「でも青年。ずっとリタっちばっかり見てるよ?」 …よく考えてみればそんな気がした。 気付いたらリタが気になってる。 あの子が何をして誰と話してるのか、何を考えているのかが気になったりする。 「…気のせいだろ」 そうだと信じたかった。 この気持ちを自覚してしまったら、リタとはどんな顔で接すれば良いのか分からなくなる。 「あ、そ」 そう言って男はふらふらと自分の傍を離れていった。…本当に優柔不断だな。 だが聞こえてしまった。 去り際のレイヴンが呟いた一言。 「でもね、おっさんもリタっちの事…好きなのよね」 男はそのまま軽薄な笑顔を浮かべたまま、エステルと会話をしていたリタに近づいていく。 彼女は不機嫌そうな顔をしているが、それはどちらかといえば強がっているようにも見えた。…本当は多分、おっさんと会話していて楽しいのだと 思う。心に靄が張った気がした。 俺は。 …リタの事、恋愛対象として好きなのだろうか。 *鳴けないカナリア 08-09,08 Back |