それは前触れのない、突然起きた事だった。
レイヴンの背後から足音が聞こえた。誰かが近付いて来たのが分かる。
顔を確認しようと振り返る――前に、
両手で誰かが抱き付いてきた。
背中から小さなぬくもりが感じられる。腹に回された腕を見て、やっと誰かを判別した。


「…リタっち?」

「……」

彼女は何も答えない。抱き付いて来た小柄な体は、小刻みに震えている様にも感じた。




「どしたの?何か悪いもんでも食った?」


リタから抱き付いて来るなんてまず有り得ない。これはもう悪い物を食べたとしか……。

「…うるさい」

ぽつりと彼女が呟いた。涙を含んだくぐもった声。…泣いているのだろうか?

「……ちょっとだけこうさせて」

彼女はそれ以来また黙ってしまった。
ああ、きっと泣いてるんだな。理由は分からないけれど。
それで誰かに涙を見られたくなくて――こうなったと言う訳か。

無理矢理手を話して踵を返した。彼女の顔を見ると、瞳いっぱいに涙を溜めている。…やっぱりそうだった。
前から無理矢理抱き締めた。彼女はびっくりしている様で、体が硬直している。

「じゃあおっさんも暫くこうさせてね」

あどけなく笑うと、彼女は「馬鹿」とだけ呟いて、うずくまってしまった。
何時もは頼りある強い瞳が、今だけ憂いを帯びている。…いや。本当は、何時も1人でこうして泣いていたのかもしれない。
膝を抱え、うずくまって、全部自分だけで抱えようとして。


「…1人で泣くなよ」

傍に居てあげたいんだ。
大事な人だから。


彼女から再び嗚咽が聞こえた。…今はそっとしておいてやろう。
レイヴンはリタが泣き止むまで、ずっと彼女を抱き締め続けた。



*貴方のぬくもりが浸透してる


旧サイト4000HITリクのレイリタらぶらぶ。
当初は此処までサイトが延びるとは思ってなかったので驚くしか無かったです。真面目に。

08-08,20



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