理由は、よく覚えてない。
けれど現在。あたしは目の前でへらへらと笑うおっさん事レイヴンに一方的に悪態を吐いていた。
何の言葉に苛ついたのか自分でもよく覚えて無いけど、とにかくムカついた。

「どうせあたしの事何てどうでも良いんでしょ?」

加えて、つい言ってしまった言葉。
…その言葉に今までへらへらと笑っていたおっさんが急に眉間に皺を寄せて怖い顔になった。思わずちょっとだけ後ずさる。
「っ――!」
だが次の瞬間には壁まで突き飛ばされていた。簡単に突き飛ばされる自分が憎い。
レイヴンが片手で此方の両手を掴み、此方を冷ややかに見て来る。その瞳に、何時もの様な楽感的な情は見えなかった。

「ちょっと、痛いんだけど」
抑え付けられた両手がきりきりと痛む。
強い力で抑え付けられているからだろう。だがレイヴンはそれを無視して来た。
冷ややかな瞳が此方を舐めまわす様に見つめながら言う。


「今何て言った?」

普段とは違う、低い声に反応して震えだす自分が憎い。本当に憎い。
何であたしがおっさんに怯えないといけないのよ。何で…。

でも、やっぱり怖い。


目を逸らしたら、顎を掴まれ無理矢理目を合わせられた。体の震えが止まらない。それどころか一層強くなる。

「目を逸らすな」
「……」

「リタ!!」


それでも俯いていると、怒声で名前を呼ばれた。瞳に雫が溢れる。
こんな事で泣き出す自分が嫌だ。
両手が塞がれて居るから涙も拭え無い。



「だ、って…」

――あんたは、
あたしと居る時より、ジュディスやエステルと一緒に居る時の方が楽しそうじゃない。
小さくそう言うと、無理矢理唇を塞がれた。
拒絶しようと必死に足をばたつかせるのに、体の震えが大きくてあまり抵抗になっていない。
「ん…ふっ…」
苦しい、息が出来ない。
窒息しそうな位までキスをされた。唇を離された頃には、体に力が入らない状態だ。



「二度とそんな事言うな」

冷ややかに男が告げる。
次の瞬間、漸く解放された。両手を離された時には、思わず床に座り込む。
レイヴンはそれ以上何も言わなかった。
黙って部屋を出て行き、それきり部屋に沈黙が残る。


「…なによ……」

あたしは事実を述べただけじゃない…。
未だに震えている体と、止まらない涙を噛み締めながらリタは思った。




*普段と違うあなたがこわい


旧サイト13000HITリクのレイリタで鬼畜系。
書いてて楽しかった。ごめんなさい。



08-09,01



Back