最初に思った事は、

俺はどうしてこんな事をしたのだろう。と言う、自分への疑心だった。
次に、二の腕にまで伝い落ちてくる赤い液を認識した。
それから、自分を必死に呼ぶ彼女が視界に映る。薄暗い神殿の中だから表情は読み取れないが、泣いている事に間違いは無かった。君の雫は
俺の頬に落ちて、まるで君と俺の両方が泣いている様に見える。

「なんでっ…!!」

嗚咽を漏らす彼女から聞こえてきた言葉だった。
涙を必死に殺しながら、彼女は尚も語る。

「あんたなら…避けれたでしょ!?
なのになんで……」


…ああそうだったな。
君の打ち放った魔術が、俺に命中したんだっけか。
避けたく無かったから避けなかった。
そう言ったら彼女は何時もの様に「バカ」と言って微笑んでくれるだろうか。


「…リタ」

「バカっ…!あんた本当にバカよぉっ!!!」


両手が赤に染まっても、その手に付着した血液がぬかるんでいても、彼女はずっと自分の応急処置をしていた。…本当、お前はどこまでもお人好
しだな。敵になった俺に情けを掛けるなんて。
そんな所が愛おしくも感じに――不安にも感じる。

やはり俺は、君の隣という光の居場所は似合わないみたいだ。


リタが零した涙が瞳まで逆流してきて、もうどちらの涙なのかさえ分からない―――…。



*君が幸せになれるのなら
(本望だ)




08-09,28


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