「大丈夫か?」

俯いていた私を、呼び止めたのは教官だった。
大丈夫か、というのはフーリエお姉ちゃんとの事を指すのだろう。
「…うん、大丈夫」
力無く笑うと教官は眉を潜めた。


「…すまないな。あの時はカーツのことに気を取られ、慰めの一つも言えなかった」
「仕方ないよ。教官の知り合いなんでしょ??」
唇を釣り上げるが、上手く笑えていない気がした。
…フーリエお姉ちゃんを苦しめていたのはあたしだった。
あたしがお姉ちゃんの努力を台なしにした。あたしが、あたしが――…。
「――パスカル…」
不意に体が意識に反して倒れたと思えば、教官の腕の中に居た。フェンデルの寒さに反比例する暖かさだ。
「…無理をして笑うな」
ずきんと、胸が痛む。

「……教官は凄いね、何でも分かっちゃうんだ…」
フーリエお姉ちゃんの言葉を気にしてることも、弟君に慰められてからも泣いてたことも…。
「…同じ様な痛みを、知っているからな」
「……カーツさんのこと?」
何と無く問い掛けたつもりだったのに、教官の顔が微かに動揺した。聞いちゃいけない事だったみたいだ。
「あ…ごめん」
「……いや」
慌てて謝ったが、教官はそれきりそっぽを向いてしまった。あたしを抱く力は比例して強くなるのに、何だかずるい。
手を伸ばし教官の背中を力強く抱きしめた。刹那教官が驚いた顔を見せる。その胸板に顔を埋めた。

「…教官も、無茶しちゃヤダよ」
泣いてることだけはバレたくない。きっと教官は自分の所為だと思うから。
「……そうだな」
微かに返事をした教官の肩が、震えていた。



*傷痕の抉り合い
(2人で泣いてたのは、あたし達だけの秘密だよね、教官)



10-03,27




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