※マリク視点



「教官!!」

戦闘中、勢い良くぶつかって来た小さな体が俺の体を突き飛ばした。
突き飛ばしたと言っても2、3歩前にずれただけだが、何をするんだとぶつかって来た本人の方を振り返れば、

「パスカル!!」
彼女が目の前で倒れていた。
――傍に敵の姿は無い。遠くで魔物が術を放ったのだろう。
「パスカル!?」
気付いたシェリアが寸でまで詠唱していた術を止め、傍に駆け寄って来た。
彼女は直ぐに回復術の詠唱を初め、祈る様に組んだ指が光を生み出し、パスカルを包む。


「大丈夫か?」
薄目を開けたパスカルの肩を慌てて揺らした。彼女は肩で息をしながら唇を少しだけ釣り上げる。
大丈夫だと言っているつもりなのだろうか。
最後の一匹を薙ぎ倒したアスベル達も走り寄って来る。アスベルもまたシェリアの隣に腰を下ろし、浅く体を揺すって大丈夫かと呟いた。

「どうしてこんな無茶を…」
男である俺に比べ、彼女は非力な女性だ。
シェリアやソフィより年上とは言え、攻撃の痛手は彼女の方が強いに決まっている。
自然と呟いた言葉に、やんわりと微笑んだパスカルが口を動かした。

「だってあたし、いつも教官に守られてるもん…」
たまには良いでしょと彼女は言葉を続け――傷痕が痛むのか唇を噛み締めた。
シェリアはまだ回復を続けている。傷はまだ完治していない。
「…守られてれば良いんだよ、お前は」
頭を優しく撫でると、大分痛みが柔らいだのかパスカルは普段の様な無邪気な笑みを浮かべた。



*アジタート



10-03,28


※アジタート=音楽用語のひとつ。激情的に、急速に、の意。




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