※病んでるパス→マリ



教官をあたしだけのモノにするのは、フェンデルに降り落ちる雪の塊を受け止めるのと同じ位難しいことは、十分わかってるつもりだった。
分かってても暴走する恋心を抑えれなくて、何度も教官に好意を寄せ続けた。
でもそれは、何時かは振り向いてくれると信じていたからやれていたことで。
…知らなかったから、出来たのだ。
教官には、好きな人が居たってことを。

しかもその人は教官の心を二十年も掴んでる人だった。
出逢って間もないあたしが、その人に勝てる筈も無かった。
諦めれなくて、でも諦めなくちゃって思って、苦しくて、泣きたくなって…。


気付いたら、教官から逃げ出していた。

パスカル、と。教官は何度も呼んでくれたけど、振り返らずに逃げ出してしまった。
雪に染まった街中を走り抜け、使われていない古い建物に入り、階段を駆け上がって屋上に飛び出した。

…そうして今に至るけど、教官は今何をしているんだろう。呆れて宿に帰っちゃったのかな。
折角教官が自分からあの人の…ロベリアさんの話をしてくれたのに。
「…あたしらしくないなぁ、」
自身の頭を軽く叩いた。
あたしらしく無いけど、自分らしく無くなるのが恋だって、誰かが言っていた。


やっぱりあたしは教官が好き。大好き。
忘れたくても忘れられない感情に、頬を濡らす。


「――パスカル!!」
不意に下から声がした。
錆びた屋上の柵の下に、小さな教官の姿が見える。
教官の服は乱れて、息も荒かった。あたしを探して走り回っていたみたいだ。
…狡いよ教官。
振り向いてくれない癖に。あたしを恋人にはしてくれない癖に。そうやってあたしに優しくするのは、狡い。

柵を越え、屋上の端に立った。
白い雪が花びらの様に散っていく、綺麗な白い世界。あたしの生まれた国。

「パスカル!危ないぞ!!」

生まれた国で、大好きな貴方に抱かれて、空を飛べたらどれだけ楽しいだろう。


「受け止めてね、きょーかん」

足を踏み出し、屋上から身を投げる。


雪と共に落下する体に、恐怖は無かった。
でも地面が見えた時は、羽をもぎ取れた天使の気持ちになった。



頭から雪の積もった地面に落ちた瞬間激しい痛みが体を襲い、赤く染まった視界から意識が途絶えた。



*ピリオド∞マイワールド



10-03,30




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