「風呂に入る気が無いなら、せめてこれでも付けろ」

呆れ顔のマリクが投げた物体を、パスカルは両手で受け止めた。
掌に落ちたそれは、マリクが何時も使っている香水だ。蓋を開ければ彼の匂いと同じ香りがした。

「貰っていいの?」
「ああ、予備が有るからな」
確かにマリクの手にはもう一つ同じ香水が合った。
パスカルは笑顔で頷き、早速その香水を体に吹き掛ける。

体に香水を纏い、蓋を閉めたパスカルに、マリクは後ろから彼女を抱きしめた。
「きょーかん?」
第三者から見れば唯の恋人にしか見えない状況で、マリクが優しく囁く。

「毎日付けろ。無くなったらやるから」
「何で?」
「マーキングだ」
パスカルの耳元で男は笑った。
「マーキングって?」
質問の続く彼女にマリクは嫌な顔一つ見せず、寧ろ愛おしむ様に彼女をきつく抱き寄せる。

「お前は俺のモノって証だ」

告白とも取れる言葉に、‘マーキング’の意味を理解したパスカルの顔が、彼女の毛先の様に赤くなった。



*マーキング




10-03,31




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