「パスカル?」

うたた寝をしていたらしい。
マリクの隣で寄り添う様に眠っていたパスカルが、何時の間にか居なくなっていた。
彼女の居た場所にはまだ微かなぬくもりが残されている。何処かに行って、まだ時間は経っていないらしい。
何処に行った?
辺りを見回すが、特徴的な赤と銀の混ざった髪は見当たらない。
――嫌な妄想だけが頭を通り過ぎて行った。

それと同時、



「きょーかん!」

背後からマリクを掴む手が現れた。
腰に細い手首を回す彼女は、マリクが探していた彼女で間違いない。

「…何処に行ってたんだ、パスカル」
前に回されたパスカルの両手を、マリクは優しく握り締めた。
「んとねー、シェリア達に会いに行ってた!」
恐らく彼女の方が先に目覚めたのだろう。
隣で眠っていた自分を起こさぬ様にそっと立ち上がり、そして仲間達の所へ遊びに行っていた…という所か。

何も無かったことに安心したマリクは、彼女の両手を無理矢理解き、踵を返して華奢な体を抱き締める。

「…何処にも行くな」

失いたくない。20年前のあの日を、繰り返したくは無い。
それを悟ったようにパスカルは、小さくうんと呟いた。



*ここにいるよ



10-04,05




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