※マリク目線



「ごめんね、教官」

普段とは真逆のか細い声で、パスカルは何故かそう呟いた。
意味が分からずに首を傾げれば、彼女は俯いたまま言葉を落とす。

「あたしがあんな実験しなければ、カーツさんは死ななかったのに」
…大紅蓮石の一件を、彼女は未だに引きずっている様だ。
はっ。となり、肩を震わせる小さな体を片手包む様に抱きしめた。もう片方の手でパスカルの手を握り締めるが、凍える大地に冷やされた所為か熱
を帯びていない。
落ち込む彼女を慰める事すら出来ないのかと唇を噛み締め、乱暴にパスカルの体を引き寄せる。
普段なら顔を上げてどしたの?と聞いてくるだろうパスカルは、今日だけは無反応だった。
このままではいけないとは思った。

「…いいか、パスカル。よく聞けよ」
静かに、パスカルにだけ聞こえる様な声で優しく彼女に囁く。
「カーツが死んだのは事故だ。…誰も悪くない」
「…」
パスカルは黙ったままだった。
痙攣する様に微かに震える肩は、寒さからではない事ぐらい分かっている。


「……俺は20年前、己の過ちから大切な人を亡くした。…俺が好きだった女だ」
「…」
「今回は事故でカーツを亡くした」
だから、と。言葉を続ける。

「もう誰も失いたく無いんだ」

この小さな体だけは、外身は強く見えても中身は壊れそうな心だけは。
守りたいんだ。何が合っても。
――例えそれで俺が死んだとしても。

「…お前だけは…失いたくない……」
愛してる。この小さな体も微かに感じられる熱さえも。全てが愛おしい。
ロベリアの二の舞にはさせない。俺が守り抜く。絶対に。

「……きょー…かん…っ……」
ぽつりとパスカルが名前を呼び、彼女はその場で涙腺を決壊させた。止め処無く溢れるパスカルの涙を、何度も何度も拭いてやる。
そして、息が出来なくなる程パスカルを抱き寄せた。



*ふたりを繋ぐ責任感
(どうか、この腕だけは離さないで)



10-04,09




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