「ねぇねぇシェリア」
台所に顔を見せたパスカルは出来上がり寸前の焼鳥丼を見、げっ、と小さく呟きながらシェリアの隣に立った。
パスカルは油っこい物が余り好きではないらしい。
バナナパイは好きな癖にとシェリアは心の中で焼鳥丼を嫌がったパスカルに愚痴を呟く。
「なに?パスカル」
唯焼鳥丼をけなされた事と彼女がシェリアを呼んだ事は話が別だ。
微笑みを浮かべたまま振り返ったシェリアに、パスカルは難しい顔をして呟いた。

「あたしどっか悪いのかなぁ」
「…どうしたの?具合悪いの?」
風邪か何かだろうか。調理を中断し、軽く手を洗ったシェリアはパスカルの額に手を当てた。
自分の額にも手を当てるが、平熱の様だ。熱でも無いとなれば食あたりだろうか?
「んーとねぇ」
細い括れに手を当てたパスカルが唸り声を上げる。彼女は虚空を見上げながらぽつりと言葉を降らせた。
「ある人を見るとね、胸がきゅーって苦しくなるの。脈が早くなってね、うんと。それとー…」
「…パスカル、それって」
口に手を当て驚いた顔を見せたシェリアが、やがて美しく微笑んだ。
「それはね、女の子なら誰でも持ってる病気なのよ」
「へ、そーなの?」
じゃあシェリアも?と小首を傾げたパスカルに、ええと彼女は肯定した。
大好きな人を見て胸が苦しくなるのは、自然現象だ。私だって‘彼’を見ると…。




(パスカルと恋の話が出来るのも近いのかも)

くすりと微笑んだシェリアは、パスカルが思っている人はきっとあの人なのだろうと思いながら、調理を再開した。


「今度、鯛茶漬けの作り方教えてあげる」
「ほえ?」
「きっと喜ぶわよ」

微笑んだシェリアに対し、再び空想に思いを馳せたパスカルが暫くしてうんと大きく頷いた。



(やっぱりあの人のことなのね)
同時にシェリアの予測が確定した瞬間でもある。




*それが恋の病です
(ついでにバナナパイの作り方も教えて!!)
(あはは…鯛茶漬けの後でね)



10-05,02




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