「パスカルさんは、お姫様に憧れたことは有りますか?」
唐突に始まったヒューバートの問いに、パスカルは大袈裟に悩むポーズを見せた。

「んー、どして?」
「女の子なら一度はお姫様に憧れると聞いたからです」
「シェリアは憧れてたもんねー」
そう言って無邪気に笑う彼女に彼は溜息を零す。
癖となった眼鏡の位置を直す仕種をしながら、ヒューバートは言葉を投げた。
「話を逸らさないで下さい。
…それで?貴方はどうなんですか?」
もう一度同じ質問をすれば、再び悩んだ表情をしたパスカルが上の空の返事を返す。


「…無い、かな」

「ですよね」


即答されたヒューバートの言葉に、パスカルが彼を見た。本人曰く怒ってるみたいだ。
「弟君ひどーい!!今絶対やっぱりって思ったでしょ!!」
「…そう思ったからああ云う返事をしたんです」
ヒューバートの返した言葉にパスカルは嘘泣きを浮かべて「酷い」と繰り返した。
嘘泣きだとは分かっているが、こんな状況を誰かに見せる訳には行かない。
必死に彼がパスカルを慰めると、彼女は呆気なく機嫌を直した。


「でも、今はちょっと憧れるかなー」
…不意に聞こえたパスカルの呟きは、ヒューバートにとって想定外だった。
「…どうして?」
純粋に理由を知りたかった。
お姫様なんて女の子らしいモノに彼女は何故今更惹かれたのか。きっとくだらない理由に違いないが。
ヒューバートの問いにパスカルは忙しく表情を変える。彼女は唇を釣り上げ笑っていた。

「あたしがお姫様なら、弟君が王子様になって守ってくれるでしょ?」
「…!!」
…パスカルらしい無邪気な言葉だ。
だがその言葉はヒューバートを動揺させるのには十分だった。

「な、何を言い出すんですか!?」
ヒューバートの動揺ぶりに笑顔したパスカルは、その場から歩き出す。
それをヒューバートは慌てて追い掛けた。



*自由を愛するお姫様は



10-03,29




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