※ヒューバートご乱心中
※マリパス←ヒュ?



パスカルは部屋でマリクの帰りを待っていた。数時間前に出て行った彼は、何故か未だに帰ってこない。
(用事でも出来たのかな)
溜息を吐いた瞬間、けたましい音と共に扉が開く。
マリクだとばかりに思っていた彼女は入って来た人間の顔と服装に驚愕した。
「お、弟君?!」
律儀に扉を閉め、こちらに向かって来るのは青い軍服を赤い血で染めたヒューバートだった。

「どったの?怪我したの??」
誰かを回復させることの出来ないパスカルは、とにかくソフィかシェリアを探そうとその場を立ち上がった。が、歩きだそうとした瞬間ヒューバートに
腕を捕まれ、赤黒く染められた両手で抱きしめられる。
驚いて挙動不審に目を動かしたパスカルは、ヒューバートに捕まれた腕に赤い血痕が付けられたことに気付いた。きっと両手にも血が付着してい
るのだろう。抱きしめられた背中にも血痕が残っていそうだ。
ますますヒューバートが不安になったパスカルは、黙ったままの彼に話し掛ける。
「弟君、シェリアかソフィに見て貰った方が良いよ。凄い血だよ」
「…その必要は有りません」
初めてヒューバートが口を開いた。
「これは返り血ですから」
「…かえり、ち?」
魔物と戦ってきたのだろうか。誰かと戦ったのだろうか。
訳が分からなくなったパスカルは腕の中で小首を傾げた。
そんな彼女にヒューバートは優しく微笑む。


「ええ、そうです。これは全部返り血ですよ。

――マリク教官の」


「…え…?」


‘言葉’が、一瞬理解出来なかった。



「僕が殺しました。腸を裂いて内臓を取り出して潰しました」
「…おとー…と…くん…?」
「喉を切り開いて気が済むまで頭を殴りました」
「…本気、なの…?」
「ええ。本気です」
確かに、ヒューバートの服に付いた血には、所々肉片の様なモノがへばり付いていた。
ヒューバートの言葉を脳内で映像再生してしまった彼女は吐き気を感じ、彼を突き飛ばして吐いた。
この血は全部教官のものなの??
教官は殺されちゃったの??
訳が分からない。床に汚物をぶちまけるパスカルを、ヒューバートは再び抱きしめた。

「嘘だと思っていらっしゃるなら、死体でも見に行きますか?解体したので原形は殆ど有りませんが」
楽しそうにヒューバートは笑った。
「ど……し、て…?」
どうして笑えるの。どうして教官を殺したの?!
混乱しながらもパスカルはヒューバートを睨んだ。恍惚と笑うヒューバートは一言だけ呟いた。



「貴方を愛しているからです」


*優しい狂気
(君が僕だけを見てくれるなら、それが憎悪でも構わない)



10-04,05




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