「ねえ、パスカル」
6人分の夕食を準備しながら、シェリアはパスカルに声を掛けた。
シェリアの傍を彼女が作ったバナナパイを食べながら廻るパスカルは、ご機嫌に踵を返して振り返る。
「ふぁふぃー?」
手に持っていたバナナパイを口に頬張った彼女は、口の中のものを消化する前に言葉を出した。食べてからで良いのにと苦笑したシェリアは、刻
んだ野菜を一まとめにしながらパスカルに問う。

「貴方、ヒューバートのことはどう思ってるの?」
シェリアにとって、それは軽い好奇心だった。
恋話に敏感な彼女は、ヒューバートがパスカルを気にしていることに気付いていた。唯、相手のパスカルは自由気ままな女性で、掴み所のない人
間だ。だから知りたかった。彼女がヒューバートをどう思っているのか。
「弟くん?なんで?」
口の中のバナナパイを消化したパスカルが、不思議そうに小首を傾げる。
「いいからっ、答えてよ」
シェリアが念を押すとパスカルは斜め上の虚空を見上げながらううんと唸り声を上げた。暫くその動作をしたままだったパスカルが、やがて閃いた
のかあっと声を上げる。
「弟くんはお姉ちゃんみたいだなーって思う!」
お姉ちゃん…フーリエさんのことだ。
期待外れの返答だったが、パスカルらしい返答だとシェリアは苦笑した。それにフーリエとヒューバートが似てるのはあながち間違いでは無い気が
する。2人は(パスカル的な意味で)面倒見が良く、自分にも他人にも厳しいタイプだ。
「他に何か無いの?格好良いとか…」
夕食の作製とパスカルへの質問を両立しながら、シェリアは更に問い掛ける。
再び首を捻ったパスカルは、やがて突拍子のない事を言い出した。
「前にユ・リベルテで女の人に会ったじゃん?何て人だっけな…弟くんと仲良しだった人」
「…マーレンさんの事?」
「そうそう!その人!」
確かにストラタ首都ユ・リベルテでマーレンというヒューバートの知り合いに会ったが…何故今になってその人の名前が出て来るのだろう。逆にシェ
リアが首を傾げれば、パスカルが組んだ両手を後頭部に回しながら呟いた。

「あの人と弟くんが話してると、気分がモヤモヤするんだよねぇ」
「…」
シェリアは一瞬、料理を作る手を止め――思わずくすりと笑ってしまった。

それが恋なのよ、と言えばパスカルはきっと否定するに違いない。
「その理由は何時かきっと分かるわよ」
遠回しに告げれば、パスカルが最初の様に小首を傾げた。



*不器用な恋愛表現
(両思いなんだから、どっちかが告白すればいいのに)



10-04,09




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