※救われないシェリア&教官




「こんな所で寝ていると風邪を引くぞ」
降り積もった雪の上に寝そべるシェリアに、手を差し延べたのはマリクだった。
彼女の体の上には雪が積もり始めており、雪に埋まった体がシェリアが此処に何時間も寝転がっていたことを想定させる。
薄目を開けていた彼女はマリクの姿を確認し、重い瞼を伏せた。
脳裏に浮かぶのは在って欲しかった未来。

探しに来たのがアスベルで、手を差し延べてくれたのが彼だったら――…。


「…悪かったな、探しに来たのが俺で」
シェリアの心を見透かしたマリクの言葉に、彼女は夢を見るのを辞めた。
空気に触れた瞳が一粒の涙を思いと共に零す。
「……分かっていたわ」
アスベルが私を心配するのは仲間として。それは恋心何て甘いものではなく、もっと現実的な感情――。
分かっていたけど、突き付けられた現実はシェリアには余りにも酷だった。


「恋って、難しいですね。教官」
起き上がる事も無くシェリアは語る。
「…そうだな」
と、呟いたマリクも又、虚空に幻想を描いていた。
掴みたかった小さな手は、何時だってマリクの指を摺り抜けて行った。
愛されたかった。だけどそれは叶うことの無い夢。永久に幻想のままだ。
求める様に伸ばされたシェリアの指を掴み、雪に埋まったシェリアの体を、マリクが無理矢理起こした。

――これが**だったら。

両者共に、見ているのは淡い幻覚だった。
思う人の錯覚にシェリアが手を伸ばせば、同じ様に思う人の錯覚に捕われるマリクが思いに答える。

悲しい擦れ違い。
起き上がったシェリアの冷えた体を、温める様に抱きしめたのは幻想のアスベルを纏うマリクだった。




*未来への絶望
(I want to happy)





10-04,12




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