「デリスビットやデリスリングは、貴方が考え出したもの…ですよね?」
バシス軍事基地から真っ直ぐテロスアステュへ帰る途中。
鼻歌を歌うパスカルに話し掛けたのはフォドラ人最後の生き残りと称すエメロードだった。
悩んだ顔を見せるエメロードに、パスカルは満面の笑みを浮かべる。
「そだよー!ま、資料とか参考にして作っちゃったんだけど」
それがどうしたの?とパスカルが問えば、俯いていたエメロードが顔を上げた。
その表情は会った頃と何ら変わらない、余裕を溢れ出した笑みを保っている。

「貴方の様な優秀なアンマルチア族に出会えて光栄だと思いました。
もしかしたら、私よりも貴方の方が素晴らしい技術を持っているのかもしれません」
「んー…」
エメロードの褒め言葉に、パスカルは罰の悪い顔をして意味も無くその場をニ回転した。
逆に小首を傾げたエメロードに、パスカルはぽつりと呟きを返す。

「…あたし、天才とか秀才とか、そういう言葉あんまり好きじゃないんだ」

それは彼女の胸の内に未だしこりとして残る、フーリエとの喧嘩が元凶だった。
良かれと思ってやって来た事は、全て姉の努力を否定するものだった。
初めて自分がやっていた事は他人が出来ない事だったのかと気付き、今では‘天才’という言葉は彼女にとってノイズの一種である。


「…私も余り好きでは有りません」
そんな彼女にエメロードが返して来た言葉は、想定外の言葉だった。
「ホント?」
思わず問い返せば、エメロードは瞼を閉じて噛み締める様に頷く。
――彼女の瞼に映る視界は、かつての美しいフォドラと、‘天才’と謡われたとある学者。
かつて愛していた男。
「…ええ」
あの人のことを思い出すから。エメロードは付け加える様に呟いた。
シェリアなら敏感に反応していたで有ろうその言葉を、パスカルは首を縦に振り適当な肯定を返す。
会話はそこで途切れ、エメロードとパスカルは又別々に歩きだした。





遠巻きにエメロードとパスカルを見つめていたヒューバートが、会話が終わった頃合いを見計らいパスカルの腕を引っ張り、引き寄せる。
「何を話していたんです?」
ヒューバートの問いに、遠い空を見上げるパスカルが上の空に答えた。



「天才のお話」



*天才≠愛




10-04,13




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