「勇者ー!」
両手で何かを抑えながら、シーラはエクサの傍へ駆け寄った。
「どうした?」
エクサが問い掛ければ、走り寄ってきた彼女は輝いた目で両手を開く。
「これ食える?」
彼女の手の平では、傷を負った雛鳥が鳴いていた。
巣から落ちたのか、或いは親鳥と離れてまったのか――。
シーラが何処で拾って来たかはわからないが、エクサは雛を受け取り赤く腫れた傷口に治癒の光を当てた。
「食べれないの?」
「ああ、食べれない」
食べれない事はないが、そんな事を言えばシーラは迅速に鳥を口の中に運ぶだろう。だから敢えて食べれない事にしておいた。
傷の癒えた雛鳥はエクサとシーラに向け一鳴きすると、空へ舞い上がって行った。
雛鳥だとばかり思っていたが、ひょっとするともう成人した鳥だったのかもしれない。

「ちぇっ」
余程その鳥が食したかったのか、地面を蹴ったシーラが再び前を歩きだした。
(…それにしても)
かつてのシーラだったら、俺に聞く事すら無く雛鳥を殺して食べていただろう。出会った頃の彼女は、そういうモンスターだった。
変わったんだな。お前は。
それが無性に嬉しく感じ、先を歩くシーラに近付き頭を撫でた。
「な…なんだ?」
「……お前、変わったな。と思って」
ある意味彼女をこの旅に連れて来て良かったかもしれない。
彼女に欠落していた優しさという感情。
不器用だけど少しずつ、ひたむきに、シーラはそれを覚えているのだ。
子を愛す親はこんな気持ちなのだろう。
心の中が暖かくなり、エクサは暫くシーラの頭を撫で続けた。










ああ気に入らない。面白く無い。

使えないばかりの無能なモンスター。思い通りに行かないオリジナルと勇者の暗殺。
気に入らない。全てが気に入らない。
魔王は私だ。私はもうオリジナルの中には戻らない。
私が世界を支配する王となるんだ――!

紅の玉座に座るコピーは、舌打ちをして立ち上がった。
その足元には何処から迷い混んだのか、一羽のひ弱な雛鳥。

彼女はそれを無感情に蹴り飛ばした。



*銘銘の相違感
(彼女は慈しむ優しさを知った)
(彼女は破壊する愉しみを知った)




10-08,21



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