※ラクシュリ視点 洗面所で髪を梳かしていると、現れたアンジェリカが気前良く手を伸ばし、やってあげると言い出した。 どういう風の吹き回しなのか知らないが、断って無駄に殴られるのは嫌だ。 仕方なくゴムと櫛をアンジェリカに手渡すと、彼女は僕を椅子に座らせ、髪の毛を念入りに梳き始めた。 早起きだった所為か眠気を感じ、目を閉じて彼女が髪の毛を縛り終えるのを待つ。 うとうとと浅い眠りに誘われそうになったところで、アンジェリカが肩を叩いてきた。 「出来たっ!」 「…なぁ…アンジェリカ……」 これ、明らかに可笑しいだろう? ――アンジェリカの言葉に、鏡に映る自身の姿を確認すれば、 普段の様な一つ縛りでは無く、高い位置で2つに縛られたツインテールが出来上がっていた。 「可愛いじゃない」 そういう問題じゃない。 溜息を零し、1つだけ納得した。 アンジェリカは最初からこれがやりたくてやってやる。などと言い出した訳か。 とにかくこんな姿、エクサにもシーラちゃんにも見られる訳には行かない。 髪の毛を解こうとゴムの縛り目に手を掛けた。――途端。 「ラクシュリ?」 どうしてこのタイミングでやって来るのだろう。噂をすればなんとやら…か? 洒落にならない。 扉の前で、エクサが硬直して僕を見ていた。 「あらエクサ様、おはようございます」 「ええと…おはよう」 僕の髪を縛った事がそんなに嬉しいのか。ご機嫌なアンジェリカはそのまま部屋を飛び出して行った。 …シーラちゃんを呼びに行った訳じゃない事を祈る。 「……ラクシュリ…その頭、は?」 「…アンジェリカにやられた」 僕だって好きでやっている訳じゃない。 とにかく髪を解こうと再びゴムに手を掛ける。と、近付いてきたエクサがその手を掴み、顔を近付けてきた。 「…いいんじゃないか?」 「……は?」 エクサから飛び出した意外な言葉に、思わず生硬してしまった。 「うん、似合うと思う」 何処がだよ。お世辞にも程が有るだろうと思い、無理にでも髪を解こうとすれば。 「…エクサ?」 何故かエクサに引き寄せられた。 きつく締められた腕の中。僕にだけ聞こえる様な微かな声で、彼は呟く。 「…取らないでくれって、言ってるんだ」 胸を安らがせる透き通った声。 刹那心臓が高鳴り、どうしていいかわからなくなった。 「……でも、恥ずかしいし」 ささやかな抗議をすれば、エクサが片手で僕を抱きしめながら開いた片手でツインテールにされた髪の毛先を掴んだ。 唇を近付け、そこにキスを落とした彼が可愛いのにと同じような言葉を呟く。 …そんなこと言われたって、された方は凄く恥ずかしい。普段一つ縛りしかしないから、違和感だってあるし……。 俯き、沈黙していればエクサに名前を呼ばれる。 なんだよと顔を上げれば、矢庭に男は唇を重ねて来た。 …何も言うなという事か。 唇が離れた後、エクサの胸板に顔を埋める。違和感有るし気になるけれど仕方ない。もう少しだけこの髪型でいよう。 僕が諦めた事に気付いたのか、顔は僕の頭を撫で、毛先を指に絡めた。 *mon cheriの愛情表現 10-08,22 Back |