※エクサ視点




「何してるんだ?」
簡素なバスルームで体を洗い、浴室から出れば、相部屋のラクシュリが包帯を手に持っていた。
何処か怪我したのだろうかと瞬時に思ったが、傍らに置かれた双剣を見、成る程と理解する。
「これ、巻いてんの」
少し後に返ってきたラクシュリの答えは予想通りのモノだった。
彼は俺の‘モンスターを殺さない’主義に従い、普段は自らのスピードを抑える為鞘を錘にし、更にその鞘を紐類で縛る事でいざという時以外は絶
対に鞘を抜かない様にしているのだ。


鞘の固定が大分不安定になってきたから、とラクシュリは言葉を続け、片方の剣に包帯を巻き付ける。
する事も無かった俺は慣れた手つきで作業するラクシュリの隣に腰を下ろし、その作業を眺めた。
俺より先にシャワーを浴びたラクシュリの髪はやや濡れている。ドライヤーを使っていない様だ。浴室を出て直ぐこの作業をしていたのだろうか。

不意にラクシュリの顔に掛かった彼の横髪で眺めていた手先が隠れ、ラクシュリ自身伸びた髪を鬱陶しそうに掻きあげた為、濡れた髪に触れ、そ
れを持ち上げた。

「ちょ」
驚いた顔をしたラクシュリが此方を見、二度驚いた顔をする。

「…顔近いって」
目を逸らしたラクシュリが小さく呟いた。
どうやら作業を見つめている内に彼に接近していたらしい。
「ああ…、すまない」
髪を掴んだまま顔を離し、作業に没頭するラクシュリの横顔を盗み見る。
彼は細い指で丁寧に鞘に包帯を巻き、時折鞘が抜け落ちないかを持ち上げたりして確認していた。
(その指でよくこんな重いの持てるなぁ)
感心してしまう程指先は細く、鞘は重い。
前に一度だけ鞘を持たせて貰ったが、思わず声が出てしまう程の重量だった。
俺より腕力は無い筈なのに。
無意識の内に作業する彼を後ろから抱き寄せ、濡れた髪に唇を押し付ける。
微かなシャンプーの香りと共にラクシュリが呟いた。


「作業出来ないんですけど」
「…ああ、そうだな」
甘い香りに脳髄が侵される。
細い括れに手を起き、何を食べたらこんなに細くなるのだろうと考えていれば、最初はああだこうだと呻いていたラクシュリも、黙って腕の中へ収ま
った。



*スピリッツァー的恋愛感情





10-08,22


スピリッツァー=カクテルの一種。はじける泡という意味。




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