※病んでます
※ラクシュリ視点





どうして?そう問ったキミは傷心を顔に浮かべ、愕然と僕を見ていた。

「…自信が無くなったんだ」

そう言って僕は、自分にとって最も都合の良い嘘を並べて肩を震わせた。
単純なキミのことだ。俯いて泣いたふりをすれば無理に顔を上げさせようとはしないだろう。
ていうか、涙なんて簡単に出るけどね。
嘘に塗られた落涙を零せば、エクサは突き出した右腕の行き場を無くし、硬直した。
多分頬を叩くつもりだったのだろう。嘘でも泣いといて良かった。




「…だから、僕はキミの右腕を下りる」


自信が無いというのは嘘だ。
完全に嘘かと聞かれたら少しは合っているが、それでも僕が‘勇者の右腕’を下りようと思ったことには別の訳が有る。
キミにだけは言えない茨の秘密。
だから彼には悟られたくないんだ。

キミの代わりは居やしない。だけど、僕やアンジェリカの代わりなら幾らでも居る。
僕はそう言って涙を零しながら微笑んだ―――つもりだった。
不意にエクサが僕を引き寄せ、胸板に押し付けるように抱きしめる。

「それはお前の本心なのか?」
腕に力を込めた彼が囁いた。
嘯くようにああと返事を返しつつも、嘘を見破られたのかという疑惑に心音が高揚する。
僕は何かおかしい事を言ってしまったのか?しかし、あの涙に騙された男が間違った言動一つで眉を動かすとは想定思えない。
じゃあどうして。それを問う前に窒息する程に僕を抱きしめた彼が呟いた。

「…なら、何でお前はそんな辛い顔をするんだ……」

…無意識に顔に出ていたのかもしれない。微量でも気を抜けば直ぐにこれだ。エクサはそれを見ていた様だ。
だからこうなってるのか。
抱擁されながら淡々と事実だけを受け入れ、背中に手を回す。
同時に温もりの中で思った一つの確信。

やっぱり僕はエクサが好きだ。


それは自覚こそ合った物の、実る筈は無いと諦めていた恋情だった。
だからこそ、傍に居れば居る程辛くなって。
彼が僕を頼る度にどうしようもない気持ちだけが滞って。

そうして僕は勇者の右腕を下りる決意をした。
傍に居るのに触れられない。手に入れたいのに手に入らない。こんなに辛いなら、いっそ遠ざかった方がマシだ。
そう思った、のに。

キミって奴はどうして僕を引き止めるんだ。
心配した声色で抱擁までして。
それがどれだけ僕の心を掻き乱すのかキミはわかって居るのか。


僕だってキミと別れたくは無い。
だけど、他にこの恋情を諦める方法が見当たらないんだ。




心の中で何かが爆ぜ、僕はエクサの体を突き飛ばした。
呆然とする彼の前で、身幅を握り締めた右手から鮮血が滴り零れる。まるで僕の心みたいだ。
微笑み、男が止めるのも聞かずに自身の胸元へナイフを振り下ろした。




一方的盲愛末路
(キミが手に入らないなら、いっそ死のう)




10-09,04




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