※微妙に病んでるヒスイお兄ちゃん


スピルリンクするたびに、怖くなる。
関われば関わる程、抱く不安が大きくなる。
この場所は、この男(シング)は、故郷では見る事の無かった性格の人間で。
築いてきた‘何か’が壊されていく気がする。
音も無く、影も失く、だけど確実に。
ソレは‘俺’という存在を形成するスピリアを変えていく。捻じ曲げて往く。

――俺は、これがたまらなく怖い。
変わらないと思っていたものが変わっていくということ。
‘絶対’が不可能であるという、証拠。


そうだ。俺が一番恐れているコトは、
この繋がりも、心も、何時か原型を留めぬ程に心変わりし、
‘俺’という存在を否定される―必要とされなくなる―という事だ。

「どうしたんだよヒスイ。急に黙っちゃって」
不意に横に立ったのは純粋に笑うシングだった。
…分かっている。こいつが俺を、俺達を見捨てるなど、それこそ‘絶対’ないことだ。
それでも不安は消えない。…ああ、俺は何処かでこいつを疑っているんだ。
「イネスの胸の大きさでも測ってたんじゃなーい?」
「あら、そうなのヒスイ?」
幼く笑うベリルに対しイネスは何処までも大人だ。やんわりとした顔で微笑んではいるがイネスが裏で何を思っているかなんて分かりはしない。
――スピルリンク、しない限り。

そうだ。それが良い。
スピルリンクなんてモノは無意味だ。知らなくていい事などこの世には溢れ返っている。だからお互いの心も知らない方が良い。
そのほうがきっと、お互いの本心に気付かないまま、笑っていられる。
「…お兄、ちゃん?」
‘無垢’のまま、笑っていられる。
「警告!ヒスイの後ろに敵の気配を察知!」
「ヒスイ!!」

我に返った頃には、体を引き裂くような痛みが走っていた。


*迷宮-01/Hisui Side-
(鮮やかな赤が、俺の視界を。染めていく)






10-01,13



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