自身の闇から目覚めたのはそれから数時間後だった。
薄く目を開け周りを確認すれば、仲間達はすやすやと寝息を立てて眠っている。――そこの馬鹿を覗いて。
「ねえ、ヒスイ」
…馬鹿に、シングに呼ばれ彼を少しだけみたが、シングは俺が起きたから声を掛けた訳ではない様だ。宙に浮かぶ2つの月―白い月と黒い月―
を見つめながら、シングは独り言を呟いていた。
「ヒスイはスピルリンクが嫌いだって、怖いって言ったけど。やっぱり俺はそう思わないよ」
――…。
「確かにこの力は使い方を誤れば怖いものになる。
…だからこそ、俺はこの力を正しく使いたい。
だって、ほら」
彼が一瞬此方を見る。驚きから慌てて目を閉じてしまった。
…シングの馬鹿はまだ俺が起きてることに気付いてないらしい。
それでも狙っている様に俺に微笑み、言葉を続けた。

「本音でぶつかれるのが、仲間だろ?」

――あ、あ…。
こいつは、本当の馬鹿だ。
お前が俺に本音をぶつけているか何て分かりもしないのに。
逆に、俺がお前に本音をぶつけている証拠なんてないのに。
お前はどうしてそんなにも、簡単に人を信じれるんだ。
「何時か、ヒスイがスピルリンクなしに面と向かって‘本音’を言ってくれたら、いいな。
――おやすみ、ヒスイ」
そうしてシングは、最後に俺の手を強く握ると開いてるベッドに向かっていった。
程なくしてシングの寝息と思われるものが聞こえる。…結局こいつは俺が起きてることに最初から最後まで気付かなかった。
完全に意識を取り戻した体を静かに起こした。
そこで初めて気付いたが、ゴーグルやソーマなどが横に置かれている。

…シング、お前は本ッッ当に馬鹿だ。
馬鹿で能天気で、おまけに妹のスピリアを壊しやがった。
だけど。――どうして。


お前の言葉は、お前のその優しさは。
こんなにも暖かいのか。


「っ…」
自分でも気付かぬ内に頬に涙がつたい落ちた。
俺は、どうして泣いているんだ…?
悲しい訳でも何処か痛い訳でもない。

「…ああ」
心―スピリア―が、泣いているのか。

情けねえ。自嘲して再びベッドにもぐった。
シング。お前は本当に馬鹿だけど、お前の言葉は何処か安心できる。
俺の不安をかき消す、光の声。
――お前が俺を何時か裏切るんじゃないかなんて考え、お前の熱演聞いてたら馬鹿らしくなってきた。
5人に迷惑を掛けたのは確かだ。ガラじゃねえが明日謝っとくか。
それと、シングには…ありがとう、ぐらい。言うべきだろう。

急に心が軽くなった気がして、ますます俺の考えていた事が可笑しくなってきた。闇の中、一人で笑った。

(…ありがと、な。シング…)
俺はやっぱりスピルリンクは嫌いだけど、
お前の言うことが余りにも面白い―いや、的を射ている…―から、少しは信じてやるよ。

‘本音’でぶつかる勇気。
――スピルリンクの‘可能性’を。



*迷宮-05/Hisui Side-
(シング。お前は、俺の――)






10-01,13

一応これでおしまいです。お粗末様でした!

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