※時期→END後
孤独のスピルーンの続き






「お久しぶりですね。ヒスイ」
目の前で微笑む皇帝陛下―パライバ・マリン・ド・レ―に俺が呼び出されたのは旅が終わった数日後だった。
シングとコハクは2人で旅を続け、イネスはラピスの世話の為ヘンゼラに篭っている。ベリルは一から絵を勉強し直すと意気込んで故郷に帰った。
――俺だけ特に何もする事が無く、大人しく故郷ノークインに帰った矢先の事だ。
カルセドニーがノークインにやってきた。

男は俺に素っ気なく手紙を渡し、直ぐに帰ってしまった。カルセドニーを見送ってから、手紙の封筒をじっと見つめる。

――丁寧に書かれた直筆は、育ちの良さを現していた。
封筒を開きながら、差出人の顔を浮かべる。
手紙をよこしたのはマリンだと、何故か直ぐに分かってしまった。



内容は‘会いたい’というメッセージだった。
彼女はあの一件から両足を悪くしている。自分から行けないからカルセドニーに手紙を頼んだのだろう。
行かなければカルセドニーが煩いだろうし、何よりマリンに申し訳ない。
俺はそうして、一人でマリンの居る城へやってきた。

「…何で俺を呼んだんだ?」
問い掛ければ、マリンは会った頃より一段と磨きの掛かった優しく美しい微笑みを浮かべた。
「貴女の…貴女方の御蔭で、私はカルの心が分かるようになりました。
自分の足で立つ大切さも知りました。
…ありがとう。私は、それが伝えたかった」
それならシング達も呼べば良かったのにと思った。
唯次の瞬間にはマリンは悲しい笑顔を浮かべており――目が離せなくなった。

「ごめんなさい、ヒスイ。
…私は、孤独では無くなってしまった」
……何時だったか。彼女とはお互いに惹かれたモノを感じた。
それが孤独のスピルーンの共鳴だと、マリンも俺も気付くのに時間は掛からなかった。

だから彼女は俺だけを呼んだのだろう。――この皇帝陛下は、何故こんなにも優しく、綺麗なのか。
まるでねむり姫―あの子―の様だ。

クンツァイトと共に優しい眠りに付いた、エメラルド髪のねむり姫。
今のマリンには、あの子を、リチアを思い出させる何かが合った。


「…ヒスイ」
王座からマリンが手招きをする。
不思議に思いながら近付けば、突然マリンに抱きしめられた。

「どうか、辛いなら辛いと言って下さい」

その腕のぬくもりも、声色さえも。

「今の貴女は…昔の私みたいで、見ていて…苦しいのです」

どうして、リチアと重なるのだろう。


恋心と共に忘れようとしていたリチアの声と面影を思い出し、自然と涙が零れていった。
どうしてだろう。ベリルに言われた時に、誰が泣くかと決めたのに。

「…ヒスイ…。…貴方は、独りでは有りません……。
…コハクさんや、シングさん達。…カルや私も、みんなみんな。貴方が大好きです」
「マ、リン…」
「今度は、私が貴方を救います」

その瞬間、俺の中で堪えていた何かが弾けた。弾けたそれは涙となり、とめどなく溢れ出す。
マリンの腕が優しく俺を撫でる。
決別した彼女をまた思い出して、唯、マリンの腕の中で泣いた。



*なみだ
(どうか、今だけは甘えさせて)







10-01,28



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