※「狂気と強欲と、儚い思い」の続きになります。 ※相変わらずリタっちご乱心中 ジュディスやエステルと笑い合うおっさん事レイヴンを、ユーリが殴ったのが事件の始まりだった。 「何すんのよ青年!」 殴られた頭をさすりながらレイヴンが顔を上げる。 エステルも不思議そうな顔でユーリを見ていた。 「お前の所為だろ、どう考えても」 先程のリタの顔が頭に浮かぶ。 彼女があんなに気の迷いを見せるのは…どう考えてもコイツの所為だ。何か、確信してしまった。 「…え?何??おっさん、青年に何かした??」 「俺じゃない。リタだ」 名前を出すと、男が少しだけ顔をしかめた。…やっぱり心当たり有りか。 「彼女がどうかしたのかしら?」 ジュディスがやんわりとした顔で聞いてくる。…だが、声や目つきは真剣その物だった。 「言い触らしたくは無いんだ。けど、とにかく会いに行け」 レイヴンの体を再びど突く。 …彼は即座に立ち上がり、部屋を出て行ってしまった。 「ね、ユーリ」 彼が出て行ってから、エステルに名前を呼ばれる。振り返ると、エステルが心配そうな顔をしていた。 「リタに何か有ったんですか?」 …彼女にだけは言わない方が良いだろうな。リタが自傷してた何て。 それこそ先程のおっさんみたいに部屋に乗り込んで行くかもしれない。 「…ちょっとな」 だから曖昧に返した。 ※※※ リタが居る筈の部屋に着くと、ノックも無しに足を踏み入れた。 ――部屋に居たリタが驚いた顔で此方を見る。彼女の右手には幾つも絆創膏が貼られていた。…何があったのだろう。ユーリが行けと言ったのは こういう意味か。 「…どうしたんだよ、右手」 「……別に」 リタが素っ気なく答えた。 彼女は抱えていた本に再び目を落とす。無言で近付いて肩を掴み、無理矢理此方を向かせた。 「…なぁ、リタ」 「……」 「本当にどうしたんだよ?」 「…あんたには関係無いじゃん」 彼女が俯きがちに言った。右手の絆創膏には血が滲んでいる物も有る。 …問い詰めても無駄な気がしてきた。彼女はプライドが高いから、絶対に話してくれないだれう。 唯。予想としては考えたくない物が考え付いた。…まさかこの子、自傷してたんじゃ…? 無理矢理絆創膏の一枚を剥がした。リタが抵抗するが、全て無視する。 剥がれた絆創膏に覆われていた皮膚は、刃物の傷が出来ていた。切り口からして、絶対に自分で切った。 ああそう言う事かと漸く分かった。 後でユーリに礼を言おう。急かしてくれて有難う、と。 「ごめんな」 抱き締めると、彼女のぬくもりが指先まで浸透していた。 「…何で謝るのよ」 彼女は顔を上げない。ずっと下を向いたまま言葉を投げてくる。 「ごめん」 何で彼女がこんな事をしたのか、何て俺の弱い頭では分からなかった。 唯。俺が唯一理解出来たのは、 この傷は俺が原因で作らせてしまった事。 抱き締めた体が何時の間にか震えていた。一層強く抱き締める。 リタの表情は見えなかったが、彼女の頬に雫が落ちるのは微かに分かった。 *君が傷ついた理由が、俺だという事が悲しい 08-08,31 Back |