※マリク目線
※恋人設定だし悲恋だし死ねただし←



キッカケはパスカルの呟きだった。
「教官って、あたしのこと見てくれないよね」
「…どういうことだ?」
パスカルのことは俺なりに大事にしているつもりだ。愛する女で、恋人なのだから当然だろう。
そう返せば頬杖を付いた彼女はぽつりと呟いた。
「ロベリアさん…だっけ。教官はあたしを通してその人を求めてるんだよ」
今思えば、パスカルは不安からあんな事を言ったのだろう。
何時までもロベリアのことを女々しく引きずる俺を、恋人である彼女が良く思う筈が無い。
パスカルはロベリアに嫉妬していただけなのだ。
だけど俺はそんな事も分からない畜生だった。
「ロベリアは関係無いだろう」
「…そうやってあたしの事、少しずつ拒絶してる」
「お前に俺の何が分かる」
軽い気持ちで言ったその言葉に、パスカルが立ち上がって叫んだ。わかんないよ、と。

そこから喧嘩になっていった。
初めは軽い口論だったのに、何時しかそれはお互い歯止めが効かないところまで激しくなり――。

「お前が何時もそうだから、姉にも愛想を尽かれるのだろう!!」
――最も言ってはいけない最低な言葉を発した。
それがパスカルが最も傷付くだろうと思っていた言葉だ。
案の定パスカルは言い返して来なくなり、変わりに瞳から大粒の涙を零していた。

やりすぎた。
後悔するのは何時だって行動した後だ。
慌てて謝ろうとしたが、パスカルは涙を溜めたまま踵を返して部屋を出ていった。
遠ざかる足音を追いかけようとしたが、足が思うように動かない。
――今追いかけても、彼女が余計に傷付くだけでは?
そうして数分立ち止まった結果。俺はパスカルを追いかける事が出来なかった。
喧嘩別れか、と苦笑したが、

それだけで済んだならどれだけ幸せだっただろう。





可笑しいと感じるのが遅すぎた。
数時間経っても夜になっても返って来ないパスカルに、パーティーの全員も俺も動揺と心配が隠せなかった。
今更追いかければ良かったと思い、夜のザヴェートの街を駆け抜ける。
だが街中を探してもパスカルの姿は見当たらなかった。同じ様に街の中を探すアスベル、ソフィとヒューバートにアンマルチアの里まで探しに行って
貰う様に頼み、残ったシェリアと自分でもう一度街の中を探し回る。
(何処に居る…)
街中を何周も走り回った疲れから、足を止めた。
壁に手を付き息を整えていれば、遠くで笑うフェンデル兵の話し声が耳に入る。
「――俺達にぶつかって謝りも無し何て、アイツ本当に腹立つな」
「――けど割と可愛くなかったか?今頃どうしてるんだろうなぁ」
「――死んでるんじゃねぇ?」
物騒な話だ。また兵士が旅人か街人に手を掛けたのか。
此処は相変わらず腐った世界だ。
「――つーか、これどうする?高く売れそうだから奪ってきちまったけど」
「――武器屋にでも売っとけよ。怨念とか詰まってるかもしんねぇぜ」
「――止せよ。縁起悪いな」
兵士は笑いながら武器屋に向かって行った。…治安の悪さを伺わせる会話だ。
(嫌な国だ)
武力で民間をなぶり殺す世界。
唾を吐いて、再びパスカルを探す為に歩き出した。
遠くに見えたシェリアに居たかとアイコンタクトを送ったが、彼女は首を横に振る。
(もう探していない場所なんて……)
そう思ったが、一箇所だけ探していない場所が在った。
まさかパスカルはあそこに――?
踵を返し、静かに走り出す。

…ロベリアが死んだ場所。
俺はあの場所を捜索するのを少しだけ躊躇っていた。だが最早躊躇っている場合では無い。
裏路地を突き抜け過去の忌まわしき場所に着けば、


赤い世界が広がっていた。



その場所だけ不自然に赤く染まっており、赤い雪から腕らしきものが飛び出している。
恐らくこれがさっきの兵士が言っていた‘アイツ’なのだろう。
近付き、腕を掴んで引き上げた。酷く冷静だった自分に寒気がする。

―――いや。本当は何処かでこうなっているのを分かっていたのかもしれない。


「パスカル」


引き上げた腕と共に出て来たのは既に息絶えた彼女だった。
冷静に彼女を見れば、指からデリスリングが消えていた。あの男達が武器屋に売ると言っていたのはデリスリングのことだろう。
目線を体に向ければ、数発撃たれた跡が残されている。雪から腕だけ出ていたことも考えれば、撃たれて数分は意識が在った筈だ。
痛みの中で彼女は何を思ったのだろうか。
バナナのことなのか、姉のことなのか、仲間のことなのか。或は俺のことなのか。

「――パスカル?!」
前方から走って来たシェリアが慌ててパスカルに回復術を当てた。
「…無駄だ、シェリア」
気休めなら止してくれ。どうせパスカルはもう死んでいる。
それでも回復術を止めないシェリアからは、大粒の涙が溢れていた。
「…嘘よ……パスカルが死んだなんて…。…きっと…悪い夢だわ……」
…そう思うのが普通だ。
俺が普通じゃ有り得ない反応で居られるのは、ロベリアが同じ場所で同じ様に死んだからだろうか。
重なる記憶。あの日もこうして雪が降っていた。

「……××××…」

どちらの名前を呼んだのだろう。
最早俺でも分からない。シェリアが驚いた顔でこちらを見たからロベリアだろうか。
彼女は立ち上がり、俺の頬を叩いた。
「どうして……っ…。
…教官は悲しくないんですか?!貴方の恋人じゃないですかっ!!」
「…そう、だな……」
走馬灯とはこういう事なのだろう。
瞳を閉じれば、無邪気にはしゃぐ××××の楽しかった頃の記憶。
恋人として一緒に過ごし、同じ闘志を燃やし、時には寄り添って眠り、そうしてまた国を変える為に歩きだし――。

笑う××××が浮かぶ。
君は今天国でどんな風に俺を見ている?




それを考えた時、瞳から漸く涙が零れた。



*虚偽の世界



10-04,12


*補足*
★最後の‘走馬灯’シーン
「恋人として一緒に過ごし、」「時には寄り添って眠り、」→パスカル
「同じ闘志を燃やし、」「そうしてまた国を変える為に歩きだし」→ロベリア
要するに教官の記憶がごっちゃになってます。


続きが有ります。⇒虚偽の世界-終焉-





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