※[悲しみに染められた両手]の続き(つーかヒューバート目線)
※タイトルほど病んではいない



「やっほー!弟君!!」
彼女はマリク教官と話していたかと思えば、急に目の前にやって来た。
「…何ですか、パスカルさん」
「遊びに来たよっ!」
…この人はどうしてこうも楽観的なのだろうか。擦れた眼鏡の位置を直しながら、溜息を吐いた。
「マリクさんに相手してもらって下さい。僕は忙しいんです」
何故僕の所に来る必要が有るのか。
二度目の溜息を吐きながらパスカルを見上げれば――彼女は俯いていた。
「…パスカルさん?」
それが泣いている様に見え動揺したが、名前を呼んだ瞬間、何時もの笑顔で彼女は顔を上げた。

「…教官、最近なんか可笑しいんだよね」
「マリクさんが?」
「あたしと誰かを重ねてる、みたいな…。……あ!今の皆には内緒ねっ!!」
パスカルはそう言って逃げる様に去って行った。
…再びあの人の所に向かったみたいだ。



(傷付く位なら、止めてしまえば良いのに)

パスカルさんがマリクさんに別の感情を抱いているのは薄く気付いていたが…正直、あんな男の何処が良いのだろう。
平気で嘘を吐き、隠し事をする彼が僕にはとても許せなかった。
勿論パスカルも許せないの部類に入るのだが、あの男にだけは特異な苛立ちを感じる。
…見れば、彼等は不自然に抱き合っていた。
いや、パスカルさんが無理矢理彼に抱きしめられてると言うのだろうか。

(ああ、)
苛立ちを感じるのはこういう時なのだ。
確かにマリクさんはパスカルさんを見ているというより、彼女を誰かに‘重ねて’見ている気がする。
――それが僕には腹立たしい。
彼女は、パスカルさんは彼に好意を寄せているのに、あの男はそれに答えようともしない。
言い換えれば嫉妬とも取れるその感情を、なるべく顔に出さぬ様――静かに拳を握りしめた。



マリクさんは狡い。
パスカルさんを喜ばせるのも、悲しませるのも、全て彼なのだから。



*嫉妬に焼かれて死んでしまえ



10-03,29




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