※エクサ視点




ある晩。独りで空を見上げるラクシュリを、俺は偶然見掛けた。
声を掛けるべきか悩んだが、そのままふらふらと何処かへ歩き出す彼が急に心配になり、慌てて後ろから彼の腕を掴む。
驚いた顔をしてラクシュリが振り返った。

「…何処へ行くんだ?」
暫しの沈黙の後、ラクシュリは俺の顔から目を逸らし呟く。
「……ちょいと散歩しにだよ」
…散歩、本当に唯の散歩なのか?
その時のラクシュリの表情は、何故か泣きそうな顔をしていた。

このまま独りで行かせてはいけない。そんな警告が頭を過ぎり、掴んだ腕を強く握る。
「夜の森は危険だ、此処に居た方が良い」
「へーきへーき、僕強いし」
そう言って惚けた顔をするが、目元がいちいち泣きそうな儚さを含んでいた。
「な?だからその手を離せって」
「…ダメだ」
ラクシュリ、お前が自分で言ったんじゃないか。
――何故相談しない!
――僕達は仲間だろ?!

あの言葉、今度はお前に返すよ。

「悩みが有るなら相談しろよ。
…仲間、だろう?」

仲間、その言葉に重みを持たせてラクシュリに声を投げれば。

彼の瞳から落涙が零れた。


「…っ!!」
一瞬緩まった腕を振り払い、ラクシュリは森の奥へ踵を返して駆け出した。
「待て!!」
夜の木々に隠れる彼を追い、俺も森の奥へ走り出す。
今日の…いや、今のラクシュリは何かが可笑しかった。
思い詰めた表情。虚空を見つめる瞳。そして零れた涙――…。

ラクシュリが、何処かに行ってしまう気がした。

「ラクシュリ!!」
途中、足を止めたラクシュリを俺は後ろから掴み振り返らせた。
…泣いている。

「…ほっといてくれ……」

大粒の涙を零しながら、涙ぐんだ声でラクシュリは言った。
…ほおって置ける訳が無い。
明るくて、捻くれてるけど仲間思いで、俺の甘さを何度も叱り、修正をしてくれたラクシュリ。
こんな弱い彼を、俺は初めて見たのだ。
動揺は合った。だがそれ以上に、
ラクシュリの力になりたいと思った。

震えるラクシュリの肩を抱き、無理矢理引き寄せて抱き締める。…ラクシュリから抵抗はなかった。
「辛いのなら泣けばいい」
今なら、誰も見る者はいない。
俺も今日の事は、ラクシュリが望むなら忘れよう。
だから今だけは。
「今だけは、弱いお前でいい」
「…っ」
我慢の臨界値を過ぎたのか、ラクシュリは俺の胸板でわんわんと子供の様に泣きじゃくった。
どうしたのかと聞いても、ラクシュリを傷付けるだけなのは分かっている。
だから俺は、せめて安心させてやろうとラクシュリを強く抱き締めた。窒息してしまう程きつく抱き寄せ、抱き寄せた指先で拳を握る。


ラクシュリに何が合ったかはわからない。
だがこの涙が俺の所為なのなら、俺はもっと強くならなくてはならない。


もう、誰も傷付けない為に。



*決死の誓い





ラクシュリ視点があります⇒決死の痛哭


10-08,18



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