※ラクシュリ視点




ある晩。僕は不意に幼い頃の自分を思い出した。幼い頃の記憶には、何時だって彼の面影が有る。
懐かしいと微笑んだのも一瞬のこと。
僕は‘彼’を思い出した時、どうしようもない胸の痛みを感じるのだ。
――それはあの日の僕の罪。
彼に、クライヴに一生許されない傷を負わせたこと自分への憤怒と傷心。
僕はこれからも、一生許されない罪を背負って生きていく――。


ふらりと足が暗闇の森に出向いた時、僕は誰かに腕を掴まれた。
驚いて慌てて振り返れば、強張った表情のエクサが立っている。
「…何処へ行くんだ?」
エクサなりに僕を心配してくれているのだろう。だけど今は独りになりたい。
独りになって、懺悔と共に涙を零したら、戻って来ようと思っていたのに。
面倒な奴に見つかってしまった。
「……ちょいと散歩しにだよ」
心配しなくても直ぐ戻る、とは言ってみたがエクサが僕の手を離すことは無かった。こういう時だけ変に鋭い奴め。
「夜の森は危険だ、此処に居た方が良い」
エクサの言葉が胸に突き刺さる。
なんだよ。勘弁してくれよ。
クライヴみたいなこと言わないでくれ。
「大丈夫大丈夫、僕強いし」
惚けておこうとしたが、目頭が熱くなるのを感じた。
堪えることに限界を感じる。
「な?だからその手を離せって」
――お願いだからさっさと諦めて帰ってくれ。
泣いてるところなんて、見られたくない。
クライヴのことを聞かれたくない。
だから早く独りにさせてくれ。

「…ダメだ」
だがエクサから帰って来た言葉はNOだった。
どうして。そう言いかけた瞬間。先に口を開いたエクサが真っ直ぐこちらを見つめて来る。


「悩みが有るなら相談しろよ。
…仲間、だろう?」

ずきん。
と、抉られた様な痛みを胸に感じた。

何時だったか、悩んでいた僕にクライヴが言った言葉がある。
――悩みが有るなら相談しろよ。
―――親友、だろう?


(あ、あ……)

彼との思い出を記憶から呼び覚ます度に、リピートされるあの日の罪。
瞳から、気付いたら涙が落ちていた。

「…っ!!」
冗談じゃない。エクサにだけは見られたくない僕は腕を無理矢理振り払い、踵を返して森へ駆け出した。
「待て!!」
当然、エクサもそれを追い掛けて来る。
やめてくれ。僕が悪かった。分かってるんだ。許されないことだって分かってる。
だけどクライヴ。僕は――…。



「ラクシュリ!!」
足を止めると、追い付いてきたエクサが再び腕を掴み、こちらを向かせて来た。
…見られたくなかったのに。
俯き、大粒の雫を零しながら思う。

「…ほっといてくれ……」

震える声で唯一喋れたのはそれだけだった。エクサは刹那動揺した顔を見せたが、直ぐに表情を戻すと、僕の体を引き寄せる。
「辛いなら泣けばいい」
…流石エクサ。僕がどうして泣いてるのかは、聞かないんだな。
少しだけ微笑みを浮かべるが、微笑は涙に吸われ泣顔に変わる。
「…今だけは、弱いお前でいい」
「……」
…今だけは、許される?
その言葉を聞いた瞬間、堪えていた涙が感情と共に爆発した。
エクサの胸にしがみつき、僕は子供の様に泣き喚いた。

ごめんなさい。ごめんなさいクライヴ。
キミの腕を傷付けた、僕をどうか許して。
クライヴ。僕はキミが好きだったんだ。


――こんな弱い僕でごめん。エクサ。

泣きじゃくる僕の為に、エクサは僕をきつく抱きしめてくれた。が、
その指先が拳を握った気がした。



*決死の痛哭





エクサ視点があります⇒決死の誓い


10-08,18



Back