※時期→幼少期
※ラクシュリ視点




「今日こそは逃がさねえぞー!!!」
怒り狂った顔で追い掛けて来る店の男から逃れる為、僕とクライヴは必死にあちこちへ走った。
「ラクシュリ!こっちだ!!」
クライヴが僕を手招きする。僕は慌てて向きを変え、彼の誘導に従い廃墟の中に走った。
大分寂れているが成る程。これなら上手くまけるかも知れない。
僕はクライヴの後ろを必死に走った。それでも男はまだ着いて来る。
「しつけーよバーカ!!」
クライヴが近くに合ったバケツを奥に向かって蹴り上げた。
僕の横を擦り抜けたバケツが男に当たったかはわからない。だが悲鳴が聞こえた辺り足止めにはなった様だ。
クライヴは直ぐに隠れれそうな物置を探し、僕を手招きした。
僕とクライヴは狭い物置の中に入り、静かに扉を閉める。

「何処へ行きやがったぁ!!」
程無くして男の怒号が耳に入った。
びっくりして思わず痙攣すると、大丈夫と言わんばかりにクライヴが僕の手を握る。僕もその手を握り返した。


狭い物置の中だから、お互いの体が良くぶつかる。
その度に、僕は気持ちの高陽を感じた。
隠れている緊張感とは少し違う、手に汗を滲ませるこの思い。これは一体何なのだろう。


…やがて男の声が聞こえなくなり、先に物置から飛び出したクライヴが慎重に周りを確認した。
「…大丈夫。居ないみたいだ」
クライヴが微笑み、僕はそれを合図に物置から飛び出す。
だがその反動の所為で、物置に終われていたバケツを蹴ってしまった。
ガコンという大きな音。
しまったと思った瞬間、僕の手を掴み、胸板まで引き寄せたクライヴが物影に見を隠した。

やはりと言うべきか、直ぐに音を聞き付けた男がこちらに戻ってきた。
クライヴに抱きしめられている様な格好の僕は、クライヴの顔を見ることは出来ない。
極限の緊張感からか、震えだした僕をクライヴは一層強く抱き寄せた。
「…静かに」
耳打ちされた言葉に、息が出来なくなる位苦しい何かを感じる。
唇を必死に噛み締めていると、クライヴが僕の口元を手で軽く押さえた。
…男はまだ近くをうろついている。僕等を探しているのだろう。

(……あ…)
薄れていた高揚感が蘇る。
緊張感とは別の意味で心音が早くなり、顔が熱くなるのがわかった。

(…僕…)

薄々気付いてはいた。
高揚感の答え。




僕はクライヴが好きなんだ。



「…行ったみたいだな」
クライヴは僕を解放すると、再び周りを念入りに、慎重に調べた。
「……今度こそ大丈夫だ」
クライヴは僕の手を引き、僕を物影から引っ張った。
収まらない胸の高まりに下を向いていると、落ち込んでいると思ったのか僕の頭をクライヴが優しく撫でる。
「…クライヴ」
そうだ。元々は僕がバケツを蹴ってしまったから二度も見つかりかけたんだ。謝ろうとした瞬間、クライヴが僕の額に手を当てる。
「顔赤いけど…熱は無いみたいだな」
そう言って微笑むクライヴに、僕は更に顔を真っ赤にして俯いた。

「帰ろう、ラクシュリ」
クライヴはそんな僕の気を察してかなんなのか、僕の手を引き歩きだす。
…僕はやっぱり、クライヴが……。
気付いてしまった気持ちを、悟られないように必死に下を向いて歩いた。




*リナリア
(私の恋を知ってください)



10-08,17


例によって例の如くクライヴ視点が有ります⇒リナリア・デュオ




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