※エクサ視点




「エクサ様!!」
シーラと私情を済ませた帰り、街中を歩く俺とシーラに駆け寄って来たのは血相を悪くしたアンジェリカだった。
彼女とラクシュリには宿で待って貰っていた筈だが…?
顔を合わせて小首を傾げたエクサとシーラに、アンジェリカは訴えた。
「モンスターが現れたんです!」
しかも、と彼女は事の深刻さを細かく説明する。
――彼女曰く、現れたモンスターは唯の魔物では無い様だ。
人間の体に寄生し、その人間を意のままに操るモンスターらしい。
厄介だなと思えば、アンジェリカはそれからも言葉を続けた。
「ラクシュリが上手く倒してくれたんだけど……」
…どうやらモンスター自体は退治出来たらしい。それでも浮かない顔をするアンジェリカに、何か有るとは思った。
「ラクシュリがどうかしたのか?」
横で聞いていたシーラが思い切って彼女に問い掛けた。…いや、シーラは唯疑問に思った事を口に出しただけだろう。
口ごもっていたアンジェリカが刹那俯き、やがて意を決した様に話し出す。


「酷い傷を負ったんです…」


――ラクシュリ、が?




「ちょ、勇者?!」
「エクサ様!!」
シーラとアンジェリカの抑制を聞かず、エクサは踵を返し宿に向かって走り出した。
酷い傷とは一体どれだけのモノなんだ。
最悪の自体を考えつつ宿の扉を勢いよく開き、ラクシュリの部屋へ向かう。恐らくそこに居るであろうと思ったからだ。


「ラクシュリ!!」

扉を開けた俺は、絶句した。



「…エクサ」
抑揚を持たない声に、血生臭い部屋。
彼の両腕には血の滲んだ包帯が負かれ、痛々しさを現わす包帯は額にも負かれていた。
頬に当てられたガーゼが生めかしい。
首筋には血は滲んでいないが、同じ様に包帯が負かれている。
誰がどう見ても、‘痛々しい’などという言葉の範疇を越えていた。
「…ごめん。…モンスターは、取り逃がした……」
呟いた彼は咳込み、唇から赤い雫を滴らせる。喉の怪我の影響なのだろうか。
不意に彼が握り締めるシーツを見れば、白色だった筈のシーツには点々と血が滲んでいた。
「……取り付かれていた人は助けたけど…このザマだ…」
苦笑するラクシュリは今までで1番苦痛の笑顔を浮かべていた。

無意識の内に体が動く。
――両腕で彼の体を抱きしめた。

「……俺こそすまない…」
もし俺やシーラが加勢していたら、ラクシュリがこんな酷い傷を負うことは無かったかもしれない。
悔悟に顔を歪めれば、微笑したラクシュリが俺を見つめる。
「俺が加勢していればこんなことにはならなかったかもしれない――。…って、思ってる?」
…御名答だ。頷けば、ラクシュリは胸板に顔を埋めた。
「ばーか。どの道誰かがこれだけの傷を負ってたんだよ」
それが偶々僕だっただけだ。
ラクシュリはそう言って微笑むがシーツを握る掌にも包帯が負かれている事に気付く。
「これ?」
包帯の巻かれた掌を気にしていれば、彼が自ら話題を振った。
「穴が開いたり何だったり」
まるで当たり前の様に言い出す彼に、どうして良いか分からなくなる。

「ラクシュリ!!」
「勇者っ!」

沈黙していれば、アンジェリカとシーラが部屋に飛び込んで来る。
シーラは部屋に入るが、何故か鼻を抑えた。

「…凄い血の臭いだな……」
…確かに、俺も部屋に入った時は濃い血の臭いを感じた。
ラクシュリの状況を知らぬシーラは此方に近付き、無理に笑う彼を見、言葉を無くした。
「……ラクシュリ、お前…」
「…ちょっとヘマし…っ……けほっ…」
咳込みと同時に吐き出された血溜まりが、シーツにこぼれ落ちる。
アンジェリカは遠巻きに、辛そうにそれを見ていた。

「……」

悄然とした顔を見せたシーラが、踵を返し部屋から走り去る。
「…シーラ!!」
呼び止めたが、彼女は部屋から出て行ってしまった。
追いかけたいが、ラクシュリが…。
どうしようかと迷った矢庭、アンジェリカが前に出る。
「ラクシュリはアンジェリカに任せて下さい」
「…行ってきなよ、エクサ」
ラクシュリにも背中を押され、刹那迷ったが、直ぐに彼等の好意を受け取りシーラを追い掛けた。



01*彼等の過失
(それぞれの認識する




10-08,20


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