※エクサ視点 ラクシュリがモンスターに体を乗っ取られた日から、3日。 モンスターが再び現れることは無かったが、未だにラクシュリが目を覚ますことは無かった。 確かに傷は癒えた。最初の日より大分マシにはなっている。 だが点滴を刺している彼は一度も意識を戻さない。 アンジェリカと交代でラクシュリを見ているが、彼女もラクシュリが目を開けた時は一度もないと俯いた。 3日目の夜。寝静まった宿屋の中で、目を覚まさぬラクシュリの手を握る。 彼は時折苦しそうに呻き声を上げる事は有るが、目を開ける事は無かった。 今も、ラクシュリは眉間に皺を寄せ唸り声を上げているが、俺がしてやれる事はこの手を握り返すことぐらいだ。 「……ラクシュリ」 なぁ、早く目を覚ましてくれ。 シーラもアンジェリカも心配しているんだ。 お前の居ない生活は静かで退屈だよ。 握った手に、祈る様に額を付ける。 ――何時になったらお前は目を覚ますんだ? そうこうと考えている合間に夜は明け、空が明るくなる。 今日の空模様は曇り空だった。 ∞ 4日目はアンジェリカが代わって彼を見てくれていたが、やはり目を開く事はない。 ラクシュリが目覚めないまま、日付は遂に5日目に到達した。 流石のシーラもラクシュリを強く気にし始め、良く様子を見に来る様になる。 一度街の外から摘んで来たらしい花を、アンジェリカと一緒に持ってきた事も合った。 こんなにシーラとアンジェリカに思われているんだ。いい加減目を覚まさないと頬でも叩くぞ。 3日目の時の様に手を握る。 握り締めた掌の暖かさだけが、ラクシュリが生きていることを証明していた。 頑なにラクシュリの手を握り締めれば。 矢庭、その手を握り返す力が現れる。 「…ラク、シュリ…?」 「……」 名前を呼べば、彼が薄目を開けて此方を見た。 「っ…ラクシュリ!!」 …目を覚ました―――!! 心配していたアンジェリカとシーラに報告しに行く前に、起き上がったラクシュリの肩を掴み、俺は歓喜に溺れた。 目が覚めたら5日もよく眠っていたなと悪態をついてやろうとか、いろんな事を考えたがそれも全て吹き飛んでしまった。 純粋に嬉しかった。目を覚ましたラクシュリはまだ目が虚ろだが、確かに俺を認識している。 「具合は?もう大丈夫か??」 意識の覚醒し掛かった彼に問い掛ければ、ラクシュリは小さく呟いた。 「誰、だ?」 ――歓喜の渦から引っ張り出された感覚。 刹那、頭の中が真っ白になった。 まさか、あのモンスターがラクシュリに何かしたのか?? 硬直したまま何を言えば良いのか分からずに居れば、不意に彼は俯き、そして肩を震わせる。 「…ラクシュリ……?」 何事かと思った途端、俯いたまま肩を震わせるラクシュリは俺の肩を掴み、 爆笑した。 「冗談に決まってんだろ!何深刻な顔してんだよ!!」 そう言って爆笑したまま顔を上げるラクシュリは、間違い無く何時ものラクシュリだった。 …嘘、だったのか。 慌てた自分が何だかとても恥ずかしく感じ、息を切らすまで笑い転げるラクシュリを引き寄せて抱きしめた。 「…そういう冗談は止めてくれ。心臓に悪い……」 ぴたりと笑うのを止めた彼が、腕の中で喉を鳴らす。 「……ごめん」 腕の中で彼は小さく謝罪した。 ああもう、この人騒がせめ。 力強く抱きしめると、彼の唇から苦悶の声が聞こえる。 「ちょ…痛いって……」 まだ全ての傷が癒えた訳では無い様だ。 慌てて力を緩めようとしたが、止めた。 あんなとんでもない嘘を吐いたお前へのせめてもの嫌がらせだ。 「……この野郎」 ラクシュリが小さく呟いたが、それさえ無視して、がむしゃらに抱きしめる。 嫌がらせの様に抱き締めた力の裏で、本当に良かったと涙を流す程喜ぶ自身が居た。 やがて部屋を訪れたアンジェリカとシーラが、目を覚ましたラクシュリを見、同じ様に歓喜の声を上げた。 人騒がせな奴とアンジェリカは相変わらずの口調で彼を攻めたが、内心はとても喜んでいるみたいだ。 シーラはそんな2人のやり取りに、言いようの無い慈しみの顔を浮かべていた。 06*優しい幸せ 10-08,21 一応これでおしまいです。お粗末さまでした。 Back→05*裁きの炎 Back |