※ヤン・デ・マース←意味がわからない ※エクサ視点 俺は唯、誰も傷付かない優しい世界が創りたかった。 理想の為に俺は勇者になり、誰にも弱腰に成らぬ様、優しさと気丈さを大切に此処まで来た。 だけど、どこで弱くなってしまったんだろう。 俺が抱いた理想は全て空言だったのではないかと、最近俺は俺自身を疑惑に感じてしまうのだ。 だがそんなことを誰かに相談出来る筈も無く、寧ろ積み重なる期待と言う重圧。 俺は弱い俺自身を隠す内に、1つの感情が欠落していく感覚を察した。 それは‘勇者’という職には不必要で。だけど‘俺’と言う人間には必要な感情――…。 ――何時の日にか‘良心’という感情が消失していた。 ∞ 「……」 どうしてこうなったのか。 うやむやに散らした意識の中で、思う。 喧嘩をした理由は覚えていない。だが彼を縊ようとした理由は鮮明に覚えている。 軽い口論をする中で、ラクシュリが俺に言ったのだ。 「僕はキミを死なせない!僕が死ぬまで、キミを何度も生かしてやる!!」 口論の中、ラクシュリは確かにそう言った。 その言葉に強烈な憤りを感じたのだ。 そして憤りを感じたと同時に、思ってしまった。 ――お前が誰かに殺されるくらいなら、俺がお前を殺してやる。 一瞬正確な意識が途絶え、次に俺が意識を取り戻した時には俺の中の良心の欠如した感情が爆発していた。 首に手を回し、今にも縊りそうな力でラクシュリの頸部を絞め付ける。 呻き声を上げながら彼は悶えるのだが、何故か抵抗はしなかった。 両手を脱力させたまま温順に首絞めを受け入れる彼が、どうしようもなく愛しいものに見えるのは俺の頭が可笑しい所為だろうか。 そうだ、俺はお前を愛している。失いたくないんだ。 だけどお前が自ら居なくなる選択をするというのなら。 せめて、俺の手で殺してやる。 「…かは…っ…」 俺はその時どんな顔をしていたのだろう。…きっと凶悪な顔に違いない。 不意に良心が戻って来た時、俺は自分のしたことがとても恐ろしいモノに感じ、慌てて手を振りほどいた。 首を赤く腫れさせた彼が崩れる前に、慌てて抱き抱える。 「…ラクシュリ!!」 彼は俺の腕の中で、しきりに噎せていた。 「すまない!!俺は…っ……」 後悔の渦に飲み込まれながら、吹き飛んだ理性がラクシュリを殺そうとしていた事に恐怖を感じる。 あの時不意に我に還らなかったら―― ――俺はラクシュリを殺していたのか? 「…へ…ーき、へーき……」 力無く返事を返した彼は腕の中からふらりと抜け出し、ベットに倒れ込んだ。 どこが大丈夫なんだ。全然大丈夫そうに見えない。 慌てて彼の傍に寄ると、ラクシュリが無理に笑ってみせた。 「…気に、すんなよ……」 …気にするに決まっている。 逆にラクシュリは凶行に走った俺をどう思っているんだろう。 勇者失格か?俺への憎悪か?それとも…。 瞼を閉じたラクシュリの頭を優しく、震える指で撫でる。 抜け落ちた良心という感情。 代償は余りに大きく、迎える終焉はあまりに氷雪だ。 二度とこんな事はしない。俺は自身への誓いの為に、唇が切れる程噛み締めた。 哀毀骨立-Exa Side- 10-08,31 どうしてこうなった。いや真面目に。 ラクシュリ視点があります→[哀毀骨立-Lakshry Side-] Back |